Meet red rabbits.
暫しの間、僕はヴァロックからの一方的なお喋りを無視しながら歩き、街角にちょこんと建つ、小さなファストフード店に足を運んだ。
そして、夜勤疲れの為か、嫌に愛想のない店員に、シェイクとハンバーガーを頼み、窓から一番離れた、壁際の四人席の一番端の椅子に、どっかりと腰を掛けた。
それにしても、深夜ということもあってか、人気がない。
窓際に座り、ポテトを食べながら携帯を弄っている少女以外、一切合切人がいない。
……その方が、僕は落ち着くのだが。
「はぁ……、疲れた。少なくとも一週間は何もしたくないな」
僕は深くため息を吐きだし、ストローを軽く咥え、甘ったるいバニラシェイクを喉に流し込む。
良くも悪くも、至って普通の慣れ親しんだ味の、どろりとしたシェイクだ。
……ストロベリーのシェイクにすればよかったかな。
「くくくっ、その一週間以内にどうにかしねぇと、お前は豚箱へ投げ込まれることだろうよ」
僕の向かい側に座り、にたにたとこちらを見つめるヴァロックは、相も変わらずに挑発的な言葉を投げかける。
「……そんなことはわかってるさ。ただ、食事の時くらいは休ませてくれよ。休息だって必要さ」
じとりとヴァロックを睨みながら、僕はハンバーガーの包み紙を剥がす。
そして、満月のようなパンを持ち上げ、薄っぺらな肉の上に乗った、見るだけで鼻孔につんとした香りを催すピクルスを摘み、広告用紙の敷いてあるトレーの端へ、ぺたりと置いた。
「お前、ピクルスもちゃんと食えよ」
偉そうに足を組みながら、椅子に腰を掛けるヴァロックは、口元に笑みを浮かべたまま、眉を顰める。
「嫌いなんだよ。鼻に抜ける臭いが嫌だし、この酸っぱさが腐ってるみたいで嫌だ」
むっつりと口をとがらせる僕を見ながら、餓鬼かよ、とにやついた笑みを浮かべるヴァロック。
……どうせ僕は、子供舌だよ。
僕はそのまま一口ハンバーガーを齧り、安っぽくも安心する味を噛みしめ、ゆっくりと飲み込み、静かに口を開いた。
「ただ、そうだな。本当なら海外に高飛び……と言いたいところだけど、そんな資金どこにもないからなあ」
僕はすっからかんな通帳の数字を思い返しながら、再び深いため息を、辛気臭く吐きだした。
「なら強盗でもなんでもやって、資金稼げよ。人殺しのお前が今更何を恐れるってんだ」
けらけらと笑い、ヴァロックは僕を挑発する。
しかし、一度は僕も、その挑発に乗った身だが、今回ばかりは頷けなかった。
「これ以上面倒ごとを増やしたくないんだよ……、そもそも強盗なんて、僕の性格じゃできそうにない」
一応、僕はこれでも気が弱い。人を殺せたこと自体、奇跡に近い。
そんな僕が刃物を持って人の家に押し入り、金品を奪い去るなど、考えるだけでも億劫だ。
けれど、四の五の言って何もしないわけにもいかない。朝にでもなれば、あの死体が見つかり大騒ぎになるだろうから。
僕は営業が心配になる程にはがらがらな店内を見渡しながら、ずるずると椅子に沈み込む。
今日は疲れているのか、いつにも増して頭が回らない。元より回転が鈍い歯車に、大量な石ころを挟まれた気分だ。
石ころは割れるに割れず、歯車の動きを止め、ぎぃぎぃと不協和音を奏でる。実に不愉快極まりない。