Meet red rabbits.
2-1
 暫しの間、僕はヴァロックからの一方的なお喋りを無視しながら歩き、街角にちょこんと建つ、小さなファストフード店に足を運んだ。

 そして、夜勤疲れの為か、嫌に愛想のない店員に、シェイクとハンバーガーを頼み、窓から一番離れた、壁際の四人席の一番端の椅子に、どっかりと腰を掛けた。

 それにしても、深夜ということもあってか、人気がない。

 窓際に座り、ポテトを食べながら携帯を弄っている少女以外、一切合切人がいない。

 ……その方が、僕は落ち着くのだが。



「はぁ……、疲れた。少なくとも一週間は何もしたくないな」

 僕は深くため息を吐きだし、ストローを軽く咥え、甘ったるいバニラシェイクを喉に流し込む。

 良くも悪くも、至って普通の慣れ親しんだ味の、どろりとしたシェイクだ。

 ……ストロベリーのシェイクにすればよかったかな。

「くくくっ、その一週間以内にどうにかしねぇと、お前は豚箱へ投げ込まれることだろうよ」

 僕の向かい側に座り、にたにたとこちらを見つめるヴァロックは、相も変わらずに挑発的な言葉を投げかける。



「……そんなことはわかってるさ。ただ、食事の時くらいは休ませてくれよ。休息だって必要さ」

 じとりとヴァロックを睨みながら、僕はハンバーガーの包み紙を剥がす。

 そして、満月のようなパンを持ち上げ、薄っぺらな肉の上に乗った、見るだけで鼻孔につんとした香りを催すピクルスを摘み、広告用紙の敷いてあるトレーの端へ、ぺたりと置いた。

「お前、ピクルスもちゃんと食えよ」

 偉そうに足を組みながら、椅子に腰を掛けるヴァロックは、口元に笑みを浮かべたまま、眉を顰める。

「嫌いなんだよ。鼻に抜ける臭いが嫌だし、この酸っぱさが腐ってるみたいで嫌だ」

 むっつりと口をとがらせる僕を見ながら、餓鬼かよ、とにやついた笑みを浮かべるヴァロック。

 ……どうせ僕は、子供舌だよ。



 僕はそのまま一口ハンバーガーを齧り、安っぽくも安心する味を噛みしめ、ゆっくりと飲み込み、静かに口を開いた。

「ただ、そうだな。本当なら海外に高飛び……と言いたいところだけど、そんな資金どこにもないからなあ」

 僕はすっからかんな通帳の数字を思い返しながら、再び深いため息を、辛気臭く吐きだした。

「なら強盗でもなんでもやって、資金稼げよ。人殺しのお前が今更何を恐れるってんだ」

 けらけらと笑い、ヴァロックは僕を挑発する。

 しかし、一度は僕も、その挑発に乗った身だが、今回ばかりは頷けなかった。

「これ以上面倒ごとを増やしたくないんだよ……、そもそも強盗なんて、僕の性格じゃできそうにない」

 一応、僕はこれでも気が弱い。人を殺せたこと自体、奇跡に近い。

 そんな僕が刃物を持って人の家に押し入り、金品を奪い去るなど、考えるだけでも億劫だ。

 けれど、四の五の言って何もしないわけにもいかない。朝にでもなれば、あの死体が見つかり大騒ぎになるだろうから。

 僕は営業が心配になる程にはがらがらな店内を見渡しながら、ずるずると椅子に沈み込む。

 今日は疲れているのか、いつにも増して頭が回らない。元より回転が鈍い歯車に、大量な石ころを挟まれた気分だ。

 石ころは割れるに割れず、歯車の動きを止め、ぎぃぎぃと不協和音を奏でる。実に不愉快極まりない。
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