Meet red rabbits.
2-2
「ねぇ、ちょっといい?」

 ぼうっとシェイクを飲みながら宙を見つめていると、高く可愛らしい声が、ふと耳に入った。

 今まで静まり返っていた店内に、突如聞こえた少女の声に、僕は少々動揺し、咄嗟にストローから口を離して、声の方向へと視線を向ける。

「あ、驚かせちゃった?だとしたらごめんなさい!けどどうしても気になっちゃって……」

 僕の隣の空席を挟んだ向こう側には、胸元まである赤毛をおさげにした、うさぎのような少女が佇んでいた。

……窓際の席にいた子か。

 少女の身長は高くも低くもなく、顔立ちからして高校生くらいの子供を連想させる。

 小洒落た雰囲気のカジュアルウェアを身に纏っている反面、その服装には不似合いな、一昔前の飛行機乗りが装着するような、レトロで大きなゴーグルを首から下げているのが、印象に残った。



「なんだい?君は僕に要件があっても、僕は君に何も要件はないわけだけど…」

 ……もし、僕が殺した肉人形の件に関してだったら、どうしてくれようか。

などと頭の片隅で考えつつ、少女を横目で見ながら、僕は再びハンバーガーを食べ始める。

「そんなつれないこと言わないでよ、貴方の目とさっきの言葉を聞いて思ったんだけど……」

 少女は片手で髪をくるくるといじりながら、僕の横顔をじっと見つめる。



「貴方、人を殺してきたんじゃないの?」

 その言葉を聞き、どくん、と心臓が跳ねる。

 小声で話していたつもりが、聞こえていたのだろうか。ああ、しくじった、あまりにも不用心すぎた。

 全身からじわり、と冷汗が流れ、頭の中が熱くなってくるのを感じる。熱く茹だる頭の中は、既にてんてこ舞いだ。

 どうしよう、殺そうか?バレてしまったのなら殺すしかない。大丈夫だ、こんな女、何度か刺せば殺せる。

 けれどこれ以上ことを大きくしてどうするんだ?血が出るから駄目なのか、なら靴紐で縊り殺してしまえばいい。

 ……さあどうしてやろうか。

「……血の臭い、少しするのよ。貴方。あと目がぎらぎらしっぱなし。見る人が見ればすぐにわかるわ」

 少女は僕の隣の席に、図々しく腰を掛け、大げさに肩をすくめてみせた。

「ああ、ごめんなさい。怖がらせるつもりじゃなかったのよ。勿論誰かに言いふらす真似はしないわ。それは私にとっても、すっごく都合が悪いもの。だからそんな目をしないで」

 そう言われても、僕は彼女を信頼することができなかった。

 人を殺しているかもしれない男に、普通話しかけるものだろうか?

少なくとも僕なら、面倒ごとに巻き込まれたくないが故に、見て見ぬふりをするだろう。

 しかし、この少女は何のためらいもなく、僕に話しかけてきた。

 ……一体何のつもりだろうか。
[4/4]
←BACKNEXT
しおりを挟む
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -