Meet red rabbits.
「ねぇ、ちょっといい?」
ぼうっとシェイクを飲みながら宙を見つめていると、高く可愛らしい声が、ふと耳に入った。
今まで静まり返っていた店内に、突如聞こえた少女の声に、僕は少々動揺し、咄嗟にストローから口を離して、声の方向へと視線を向ける。
「あ、驚かせちゃった?だとしたらごめんなさい!けどどうしても気になっちゃって……」
僕の隣の空席を挟んだ向こう側には、胸元まである赤毛をおさげにした、うさぎのような少女が佇んでいた。
……窓際の席にいた子か。
少女の身長は高くも低くもなく、顔立ちからして高校生くらいの子供を連想させる。
小洒落た雰囲気のカジュアルウェアを身に纏っている反面、その服装には不似合いな、一昔前の飛行機乗りが装着するような、レトロで大きなゴーグルを首から下げているのが、印象に残った。
「なんだい?君は僕に要件があっても、僕は君に何も要件はないわけだけど…」
……もし、僕が殺した肉人形の件に関してだったら、どうしてくれようか。
などと頭の片隅で考えつつ、少女を横目で見ながら、僕は再びハンバーガーを食べ始める。
「そんなつれないこと言わないでよ、貴方の目とさっきの言葉を聞いて思ったんだけど……」
少女は片手で髪をくるくるといじりながら、僕の横顔をじっと見つめる。
「貴方、人を殺してきたんじゃないの?」
その言葉を聞き、どくん、と心臓が跳ねる。
小声で話していたつもりが、聞こえていたのだろうか。ああ、しくじった、あまりにも不用心すぎた。
全身からじわり、と冷汗が流れ、頭の中が熱くなってくるのを感じる。熱く茹だる頭の中は、既にてんてこ舞いだ。
どうしよう、殺そうか?バレてしまったのなら殺すしかない。大丈夫だ、こんな女、何度か刺せば殺せる。
けれどこれ以上ことを大きくしてどうするんだ?血が出るから駄目なのか、なら靴紐で縊り殺してしまえばいい。
……さあどうしてやろうか。
「……血の臭い、少しするのよ。貴方。あと目がぎらぎらしっぱなし。見る人が見ればすぐにわかるわ」
少女は僕の隣の席に、図々しく腰を掛け、大げさに肩をすくめてみせた。
「ああ、ごめんなさい。怖がらせるつもりじゃなかったのよ。勿論誰かに言いふらす真似はしないわ。それは私にとっても、すっごく都合が悪いもの。だからそんな目をしないで」
そう言われても、僕は彼女を信頼することができなかった。
人を殺しているかもしれない男に、普通話しかけるものだろうか?
少なくとも僕なら、面倒ごとに巻き込まれたくないが故に、見て見ぬふりをするだろう。
しかし、この少女は何のためらいもなく、僕に話しかけてきた。
……一体何のつもりだろうか。