卒業式と手紙
 卒業式の日の朝を迎えた。中高一貫校とはいえ、形式的ながらも卒業式は行われる。僕自身は、午後に学校に行き、個別で卒業証書をもらう予定になっている。
 結局、三学期は一度も登校しなかった。僕の居場所がなかった、というのが一番の理由だ。両親も、完全にというわけではないけれど、学校に行かないことを認めてくれた。
 いじめに関しては、僕が図書室に逃げたことで、自然と幕切れとなった。おたがいが和解するようないじめの解決の仕方など、ごく稀な例であると気づかされた。いじめる側がいじめをやめるか、いじめられている側が逃げることでしか、たいていのいじめは終わらないのかもしれない。
 いじめられる前までは、いじめはこの世からなくせる――そう思っていた。けれど違った。いじめを、なくす運動をすることはもちろん良いことだ。けれど、決して、今のままでは、この世から、いじめが消えることはないと、今の僕は思う。
 風のうわさで聞いた話では、サガさんは、僕の件で、学校図書館司書の仕事の範囲を超えて、動いてしまったことが、突然の異動の一因だという。ナガタ先生の言葉通り、限度を超えてしまったらしい。
 ひどく申し訳ない気持ちになった。サガさんなら、「気にするな」と言いそうだけれど。
 この森の出口に、ひとりでたどり着けるかは、今でもわからない。それでも――。
 玄関のほうから、父の呼ぶ声がする。
 最後の、登校だ。



 学校につくと、僕の本来の在籍である、三年一組の教室へと通された。
「ユキヤくん、来てくれてよかった」
「いえ」
 とりあえず、空返事をする。
「それじゃあ、卒業証書を」
 担任のカトウ先生から、卒業証書を受け取る。
「卒業おめでとう、ユキヤくん」
「ありがとうございます」
 思っていたよりも、あっさりと卒業証書授与は終了した。僕ひとりしかいないのだから、当然かもしれない。
 学校に通わなかったことで、悔やみがあるかどうかを考えたが、ひとつだけあった。それは中学の同窓会がないことだ。まあ、仕方がない。人生は長いのだから、気にすることではない。
「そうだ、ユキヤくん」
 僕が席を立とうとした瞬間、カトウ先生がそれを制するように言った。
「なんですか」
「ひとつだけ、言っておきたいことがあってさ……この世の中では、絶対に成功するっていうことは、ごく稀だ。そんな言葉を安易に口走る人を、安易に信じちゃいけない」
「そうなんですか」
 無難に返事を返す。
「でもな、それってつまり、絶対に失敗するっていうことも、ごく稀だっていうことなんだよ」
「はあ」
 なんとなく、でしかわからない。けれど、なんとなく、でなら、言っていることがわかる気がする。
「だから、失敗を恐れる必要はない。頑張れ。ユキヤくんならできるから」
「ありがとうございます」
「あとさ……悪かったな、あの時は。どうして、言わなかったんだ、なんて問い詰めちゃって……ごめん」
 カトウ先生のその声は、あまりにもまっすぐに、僕に響いた。
「いえ、もう大丈夫ですから」
 これが、時としてゆるす、ということなのだろうか。
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