12.告白

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 可那子さんのアパートがキャンパスから最寄り駅への道のりの途中にあるのは、なにかと便利だった。偶然出会うクラスメイトに声をかけられても、「今帰るところ」と一言告げるだけで嘘をつかずにその場をはぐらかせる。
「僕が可那子さんの部屋にお邪魔するのと、可那子さんに電車に乗ってもらってまで僕の部屋に来てもらうの、どっちが失礼のない対応なのか未だに分かんないんだよね」
「いいじゃんそんなの考えなくたって。どっちでも嬉しいよ」
 今日のごちそうはハンバーグと聞いていた。家で食べるハンバーグは焼いたものしか想定していなかったから、とろとろのソースに包まれた煮込みハンバーグがテーブルに出された時は思わず「おお……」と小さくこぼした。
「ネットでレシピ見つけて、作ってみたの! 失敗しなくてよかったぁ、うふふ」
 いただきます、と手を合わせ、柔らかい肉の塊を箸で切り分けてほおばる。熱くて、飲み込んだときに舌を火傷したことに気がついた。温かいご飯を食べても、スープを飲んでも、その傷がじわりと痛む。
 先日の先輩とのやりとりは、後悔しか生まなかった。実際何か不都合なことが起きているわけではないけれど、眩しくも楽しいこの時間にどこか影を落としてくるように僕の中に居座る。後ろ暗いとはこういうことを言うのだろう。暗くて足下が見えなかった。崩れそうだった。
「じゃあ片付けちゃうねー」
 よいしょっ、と勢いづけて立ち上がろうとする可那子さんの腕を掴む。何も、考えられなかった。
「え、えっ……」
「可那子さん」
 戸惑う彼女の反応を無視して強引に引き寄せる。体勢を崩した可那子さんが僕に前体重をあずけてもたれかかってくる。
「ちょ、わああ、ごめ……」
「好き?」
 ぴたり、もがく彼女の動きが止まる。
 僕のことが、とわざわざ付け足して言うのは、なんとなく自意識過剰な気がしてはばかられた。情けないと思ったけれど、可那子さんを抱きしめる手の震えを止められない。


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