12.告白

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 肩に置かれた可那子さんの頭、その表情は分からないけれど無言の時がいつにもまして優しい。体重を僕にあずけたまま彼女がごそごそと腕を動かしたかと思ったら、一生懸命それを伸ばして僕の頭をふわっと撫でた。
「……大好き」
 どん、と心臓を拳銃で打たれたような衝撃が走る。表情豊かで少しあわてんぼうの可那子さんの、こんなに落ち着いて安心しきった声を聞けるなんて思ってなかった。
「大好きだよ……伝わらない?」
 そして彼女から寄せられた唇を、僕は何の抵抗もなく受け入れる。
「ううん、そんなことない。十分伝わった……いや、伝わってる。ありがとう」
「どうかしたの?」
「いや、なんでもない。聞いてみただけ」
 どうして----僕は本当は聞きたがっていた。
 どうしてそんなに真っ直ぐに誰かのことを思えるのか。どうして僕みたいな奴を心の底から信じきって、愛してしまえるのか。僕はどうしても分からない。分かろうとする気持ちをきっとあの日に落としてきたのだろう。
 僕は「好き」なんて信じない。
 それが幸せだなんて、どうしても信じられない。
「謙太くん、心臓、ドキドキしすぎだよ」
 「好き」ではなく「大好き」という言葉。二回も繰り返して言われたその言葉。
 眩しさの中に射すさらに眩しい光に、僕の心は焼けこげたように痛んだ。




 泊ってもいいのに、と引き止める可那子さんの提案をやんわりと断り、僕は電車に揺られて自分の部屋に戻った。唇に触れながら、別れ際に再び交わしたキスを思い出す。
「また来てねっ」
 きゅっと元気に笑ってみせたその顔は、海水にまみれて笑う左良井さんのことを思い出させ、心の中でごめんねと呟く。
 アパートに着いて携帯を机に置くと、新着メールを知らせるランプに気づいた。なんとなく、嫌な予感がする。
『新着メール 松山緑』
 件名は、空欄だった。


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