9.不安な予感

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 例の小包に手を触れることなく、半年が経っていた。四角くて分厚くてずしりと重みのある白い封筒は、まるで魔法で封印されているかのような佇まいで本棚の隅のちょうどよく空いた隙間に縮こまっていた。
 中身を開けなくても分かった、あれは写真だ。大量の写真の束だ。
 筆まめな母さんのことだから、きっとあの中にどうしてあの写真を送ってきたのか、事の詳細を綴った手紙かなにかが入っているのだろうと予想される。少しだけ、気にな……。

『頼む!』

 一人になってぼうっとしていると、どうも思考がコントロールできなくなっていけない。ちょうどいいところにメールの着信が鳴り響く。送り主は永田で、件名が既に面倒ごとを表しているのがあいつらしいやと思わず苦笑した。

『今度学科のみんなでBBQやるんだけどさ、メンバーが足りない!
 暇だったら来てくれー
 P.S.可那子ちゃんくるよ!』

 文末に、手を合わせて汗を流す顔文字が添えられていた。少し考えて、気になったので聞いてみる。

『左良井さんは?』
『断られたー』

 ……我ながら愚問だった。

『困ってるようなら僕は別に参加しても良いよ』
『まじか! 助かる! さんきゅ!』

 文末に添えられた両手を振って喜ぶ顔文字。永田はメールでも感情豊かだ。
 左良井さんが来ないなんて聞かなくたって分かっていた。なんで聞いてしまったのか僕にも分からない。後悔とはまた違う、なんとなく重い気持ちが胸に残る。
 ーー越路くんの事が好きになっちゃったから、言った。

「好き、か」

 可那子さんにも好きだと言われた。だからといって左良井さんが言う「好き」と可那子さんの言う「好き」が同じ形・同じ重さを持った「好き」だとは思わない。左良井さんは付き合っている人がいるけど僕の事を好きになったと言った。可那子さんはずっと僕の事を想い続けて、その末に勇気を出して気持ちを伝えてくれた。

 相手の「好き」という気持ちに、いつのときも僕は置いてけぼりにされている気がする。

 気になりかけていた写真の束は、再び僕の部屋の隅で記憶から揉み消されていた。


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