6.一年生秋

30

「君が何考えてるのか、さっぱりわかんない」

 盛大なため息は、おそらく僕に聞かせるための音量だった。

「真依が、どれくらい君のことを思っているか、そのせいでどんな目に合っているか」

 素直に思いあっていれば、お互いに不足なところなんて何もない。僕は僕のありったけの思いを左良井さんに向けているつもりだったし、左良井さんもまたそうであったということは、これ以上ないほどに分かっている。

 でも、僕の身体がそれを受け付けないんだから、仕方がないじゃないか。

 言葉を選び、ゆっくりと息を吸い込んで、咲間さんはいつもの落ち着いたトーンを乱さない。

「真依が君を好きになればなるほど、真依は自分を傷つける。心の中で何度も罪を犯してるの」

「罪?」

 キッと僕を見つめる咲間さんの視線からは、僕に対する敵意しか見つからなかった。

「どうして真依が君を好きになったのか、未だに理解不能。ま、理解なんて一生したくもないけど。
 真依は、後悔してる。直前までずっと言うべきか言うべきでないか悩んでた。
 思いの強さが君に近づく女を心の中で殺してしまうんだ。何度も、何度も、それだけでは、飽き足りないくらいに」

 それまで単調だった声色は、『飽き足りない』の辺りからその張りを失っていた。しかしその弱さが言葉に真実味を持たせ、左良井さんの苦悩を滲ませる。

「『一番近くにいたい人の隣に、一番近くにいてはいけないのは私なの』って、真依、そう言ってた」

 その言葉はあくまで「自分」を押し付けてこなかった。好きになった気持ちの責任を、自分で取ろうとしている。その自分の中の葛藤が、今の左良井さんを一番苦しめているんだと言うなら。

 ……それじゃ一層、僕にできることなんて無いじゃないか。

「ちっとも表情が変わらないんだ。君、よっぽどだね」

 化け物でも見るような目だ。ズリ、と一歩距離を置かれる。もはや目も合わせてはもらえない。

「真依は君のことを一番に思ってる。でも同時に、依存して君を束縛してしまうことを一番に恐れている」


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