5.一年生夏

23

 明るい茶髪のショートカットに大きい目を覗かせた女の子。

「あ、あたしの名前わかる?」

「分かるよ、志摩可那子さん」

 よかったぁ、と胸を撫で下ろす仕草。それから一秒ほど空いた後、早速本題とばかりに、

「まーちゃんから今日欠席するって聞いてた?」

 と聞かれた。まーちゃんとはもちろん、左良井さんのことだ。

「いや、聞いてなかったなあ。そもそも連絡先交換してないし」

 何の気なしに答えたそれに、志摩さんは食いついた。

「え、そうなの? あんなに仲いいのに?」

「大学で会う以外に用がないから」

「そう、なんだ」

 呆気にとられた、とはこのことだろうなと彼女の反応を見て思った。そして僕と左良井さんの関係は当然のごとく親密だと思われているのもよく分かった。

「じゃあ、あのっ……」

 大きな黒目がフルフルと動く。ほどなく視線はやり場を失ったようで、しょんぼりとうつむいて志摩さんは言った。

「えっと、用がなかったら、メアドって聞けないのかな……?」

「あ、僕の?」

 こくこく、と頷く。固く目をつむっているのが、いかにも必死だと言っていた。

「……じゃあまず僕から赤外線で送るから」

「えっ、あ、うん!」

 あっ、間違えたっ、とか言いながら慌ててデータ受信の準備をする彼女。端末を数秒かざせば、僕の個人情報が見えない光で流れていく。

「……うん、登録しました! じゃああとでメール送りますっ。ありがと!」

 お邪魔してごめんなさいっ、と小さく一礼して彼女はその場をあとにした。

「ひゅーう、越路くんモテモテですな。俺なんて眼中に無かったっぽいぞ?」

 ぱちんと蓋を閉じて携帯を鞄にしまう僕に、ニヤニヤと笑いかける永田。

「『メアド聞いていいか』って聞かれてイエスでもノーでもなく『じゃあこっちから送るよ』って、お前やるじゃん? 俺も言ってみてーわ」

 向こうの女の子のグループに混ざった志摩さんと僕とをにんまりと見比べて、可那子ちゃんかわいいなーとひじでどついてくる。鬱陶しい……。

「一人と連絡先交換したくらいでモテ称号ってのは、少しハードル低くないか」

 押し付けられた肘を押し返し、反論する。というか、彼女の本来の用件は左良井さんの欠席の理由を知ることだ。僕の連絡先はおまけみたいなものだろう。

「にしてもさあ、用がないからメアド知らないってのは今時通用しないんじゃないの? ま、不必要に連絡先をばらまくよりいいけどさ。
 じゃ今夜の飯ここな。あと、俺もメアド知っておきたいから教えて」

 夕飯の場所も、連絡先を教えるのも問題なかった。先ほどと全く同じ操作、ボタン一つで永田の端末にも僕のメアドが送られた。


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