18.一枚の新聞記事

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 ずっと、ちゃんと言いたいと思ってた。
 越路くんのこと、好きよ。大好きだった。たとえあなたが誰を好いていようとも、私はあなたが好き。
 今までの私は、私のことを思ってくれる人を愛の対象にしようとしていた。逆に言えば前提条件としてそれが無いと、私は誰も愛せなかった。前の彼もそう、一年生の夏の頃もきっとそうだったと思う。あなたが私を特別な思いで見てくれていることは出会った頃から察していた。でも私は、ただそれだけであなたを好意の対象にしたのよ。それのみならず、あなたが他の誰かを特別視することも許し難かった。
 あの頃の私は、この上なく身勝手だった。こんなところで打ち明けてもしょうがないのだけれど、今はもう、反省してる。
 でもあなたと離れる時間ができて、あなたの隣に志摩さんがいるところを遠巻きに見て、よく知らない先輩から一方的に牽制をかけられて、真奈美さんの話を聞いて……それでも私の中であなたへの思いが薄れることはなかった。ただ、越路くんを見ていられればそれでいいと思えるようになった。

 生きることに大義名分をつける……そのために”生きる意味"を探すくらいなら、生きることにすがるなんて馬鹿馬鹿しいと思っていた。でもそんな”私"はいつの間にか居なくなってたみたい。

 でも、このまま同じ土地で生きようとするには、私たちは少し絡まりすぎた気がする。というよりは、あなたよりも私自身がずっと幼稚で、未成長だと感じた。だから少しだけ、別々に頑張れる機会を作りたくて編入を決めたの。
 分かってほしいのは、またあなたに会うために離れるんだということ。

 最後に、遺書らしいお願いをさせて。
 たまにでいいから、私の夢を見てほしい。
 あなたが見ている世界から私が消えなければ、私はあなたの世界の中でこれからもずっと生き続けられる。
 お願い。私はあなたと同じ世界で生きていたい。

 ……遺書なのに"生きたい"だなんて、私も覚悟が足りないわね。
 書いてしまったものは仕方ないから、読み飛ばして。

 最後に。
 再び会う必要が無くなってしまったら、その時はちゃんと言ってほしい。
 そのルールだけは2人で守りましょう。
 それではまたいつか。』

 ギッと軋むブランコが隣で滑らかに揺れる。僕はハッとして隣を見るけれど、誰がいるわけでもなくブランコは風に漂っていた。再び一枚目に戻って、僕はその手紙をその場で3度読み返した。
 君がいない世界に残る僕は、どこにいるというのだろう。君の五感から見放された僕は、どこで何をして生きればいいのだろう。左良井さんがいなくなってからはそればかりを考えていた。
 そんな中届いた遺書だった。彼女が僕の隣で生きていた証は、力の無い僕のこの手でも一瞬で握りつぶせそうなほどに儚い、この紙切れだけ。
(君も、ただの女の子だったんだね)
 こうなるとわかっていたら、僕の過去なんて話すべきじゃなかった。君の最期に、あんなものを背負わせる必要なんて全くなかったのに。
「ごめん……本当に、ごめん」
 21歳を迎える朝を共にしたのは、もうこの世にはいない僕の大切な人の遺書と、彼女を失って初めて流す大量の涙だった。


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