18.一枚の新聞記事

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 立て続けに2通の遺書が僕の手元に舞い込んできた。僕は死神か何かなのかもしれないと、半ば本気で考える。
 部屋に閉じこもって一人で読むのはあまり気が進まず、封筒を片手にアパートの近くの公園に出向いた。二人分のブランコ、ベンチ、砂場。それら順に見て、僕はブランコの一つに腰をかける。封は事前に切っておいた。数枚の便箋を手に取ると、”生きていた"左良井さんがこれを書いたのだという事実が僕を悩ませた。
 手紙の一文目は、予想外の書き出しだった。でもそのおかげで、便箋を持つ手の震えがなくなったのは確かだった。



『越路謙太様

 せっかくのお誕生日に遺書なんか送りつけてごめんなさい。でも色々考えた結果、貴方が生まれた日にこれを贈るのが一番適していると思った。それに、これが私なりのお祝いなんだとあなたならわかってくれると思って。
 改めて、21歳の誕生日おめでとう。こればかりはいつまでも先を越されてしまうものなのね。でもこの遺書を書いていて気付いたの、もし私よりも先にあなたが死んでしまったら、私は初めてあなたよりも先に歳をとることになる。
 きっと普通に、生きていることだけを考えて過ごしていたら気付かなかったことだと思う。

 ここから先は、いろいろ考えたことをつらつらと書いていきます。とりとめのない文章になるけれど、許してね。

 遺書を交換しようと言った日、つまりあなたから真奈美さんの話を聞いた時から、ずっと考えたの。
 生きるとはどういうことか。
 私たちは今後どうあればいいか。
 私はどうすべきか。

 あなたは生きている今を夢だと思おうと言ってくれた。研修旅行の時だから、もう2年前になってしまうのね。
 生きるということは、世界を五感で観察することだと思うの。私の五感がこの世界を「世界」たらしめているのなら、私が死んだその瞬間からこの世界は私によって観察されなくなる。それはこの世界から私が消えるかのように見えるかもしれない。でも私はそう思わずに、私からこの世界が、シャットアウトされるんだと考えてきた。
 でもあなたがあんな風に言ってくれたおかげで、死んでしまうこともさして怖くなくなった。私が見てるこの世界は、夢みたいなものだから。私が死ぬ瞬間っていうのはまるで眠りから覚める時に夢が消えてしまうみたいに、私がいなくなるんじゃなくて世界が無くなってしまうだけ。それなら怖くないと思い上がってた。
 そう、思い上がり。それは錯覚だったの。つまりそれは、少し違ったの。
 結論から言えば、それでも怖いことはあった。
 それは、あなたの中から私がいなくなることと、私の中からあなたがいなくなること。それだけがどうしても恐ろしくて、どうしても避けたかった。


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