15.悪夢

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 僕は何度か、須崎を見舞いに彼女の家に足を運んだ。噂通りのフィルムだらけの部屋に通され、彼女はベッドに静かに横になっていた。柔らかそうだった頬はすっかりこけ、髪の艶もすっかり失われていた。
「写真を広めるつもりなんて少しもありませんでした。大切な先輩の姿をそう簡単に人に見せられるわけありません。ただ、そう言っていれば先輩が写真を撮らせてくれると思ったから……」
 須崎はそう言って黙り込んだ。泣くことも許されないことを、彼女自身が分かっている……そんな感じだった。
「私は先輩がただ好きだったんです。でも、やりすぎました。今なら分かります」
 涙は一度たりとも見せなかった。気丈な女だと思った。
 それとも、僕が居ないところで涙を枯らしてしまったのかもしれない。
「ケン先輩、大切な人を奪ってしまって、すみませんでした」
 一ヶ月通い続けて、彼女はここまでのことを語ってくれた。気は晴れないが、彼女のその言葉が一生聞けないよりは遥かにマシだったと思う。
 春休みに入る頃、凝りもせず僕は須崎の家に通い続けていた。洒落た門のある白い家、そのインターホンを押すのにもずいぶん慣れた。
『いつもいつも、ありがとうございます』
 決まって母君が対応してくれる。以前マスコミ関係の訪問には一切何も語らなかったのに、僕だけは通された。たぶん覗き窓かカメラの類いがあって、それに加えて須崎本人の口添えがあったのだろう。
「いえ……やっぱりまだ、心配で」
『申し上げにくいんですが……もう……』
「えっ」
『詳しい事は存じませんが……もう会いにきてほしくないと本人が言ってるんです。それでその……』
「そう、ですか。……わかりました、お元気でとお伝えください」
『……』
 ぷつり、と無機質な音を立ててインターホンの音声は切れた。
 新学期を迎え、部活の名簿管理の仕事に取りかかるまで、彼女が学校から去ったことを知らなかった。


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