15.悪夢

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 マナの死からしばらくして、ある噂を耳にして僕は愕然とした。それは"二人は生徒会長を取り合ったものの、会長がどちらの好意もはぐらかし続けていた。その挙句、巽が後輩を貶めようとした"という内容だった。
 確かに、マナは選挙が行われるまで生徒会役員ではなかったことも、須崎が生徒会室を頻繁に出入りしていたことも事実だ。だからってこんなデマカセが通じてたまるか。
 生徒会役員の引き継ぎが行われる頃まで、噂は生徒たちを翻弄した。ハセは知らぬ存ぜぬの一点張りで、噂がどれだけ盛り上がっても僕のことが話に挙がることはなかった。新生徒会長の立候補者は出ず、二年生の各クラスの級長団から無理矢理一人を選出して出馬させる形になったらしいと聞いている。
 僕はただ掻き回していただけだったのだろうか。
 僕こそ罪を背負わねばならない存在だったのではないだろうか。
「マナがあんな風になるなんて信じられないな。ケン、あんまり気にしすぎるな」
「ハセこそ、ほとんど関係ないのに辛い思いをさせて悪い」
「……あんなに仲良かったのに、俺って本当に関係ないんだよな」
 マナに関してハセと話したことと言えば、それくらいだった。それが自然であるかのように、僕たちは生徒会引退とともに疎遠になった。
 黒い学生服も、あの日からは意味が違ってくるーーそれは喪に服すための装束。
 マナの居ないこの世界で僕はのうのうと生き続け、加害者でもなければ被害者でもない扱いを受ける。
「マナ……」
 見上げる受験期の冬の空。もう戻っては来ない、色鮮やかな日常。僕が心の底で望んでいた、なんでもない色彩。
 ただ一つ大きな十字架を心に刻まされて、僕は無傷のまま高校を卒業した。


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