15.悪夢

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 目を覚ませ、覚まして僕の目を見ろ……マナを守りきれなかったという後ろめたさが僕にそう叫ばせない。体のすべてが固まって、僕はマナを直視することさえできない。
「お願いよ、もっといつも通りにしてよ……ケン」
 あの日僕を頼って泣いてくれたマナ。同じ瞳から流れる涙は、頬に飛んだ返り血を溶かして赤く染まった。
「いつも通りにできるわけないだろ……そんなもん、向けられて」
 どこかで口にした事のある言葉だった。マナは大きな瞳に再びたっぷりと涙を浮かべて、それはもう嬉しそうに笑った。
「やっぱり、あの頃が一番楽しかったよ」
 はっきりとそう言って、真奈美はポケットから出した"それ"を握りしめ、
「ケン、ありがとう」
「マナ!」
 一息に呷った。
 マナはその場に崩れた。
 やめろ、という僕の声が彼女に届いたのかどうかは、今になっても分からない。



 マナが最期に口にしたのは、写真を現像するときに使う現像液のようなもので、つまるところ劇薬だった。たった一日で二人の女子生徒が怪我と中毒で倒れ、怪我人は一命を取り留めた。
 そしてもう一人は、その罪を裁かれることなくこの世を去った。
 たった一人の目撃者である僕は、それからしばらく忙しい日々を送ることになった。
 ――君、亡くなった巽真奈美さんと仲良かったんだってね? 目撃した時はさぞ、辛かったと思うよ。
 思い返していた。真奈美と僕が交わした言葉の一つ一つを。
 ――思い出すのは辛いと思うけど、どうして彼女が犯行に及び、そして自殺したのか……心当たりはあるかな?
 思い出していた。須崎という女と、真奈美という大切な友人との間にあったこと。
 ――わかりません、本当に。
 わからない。僕は、僕自身の気持ちが。


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