15.悪夢

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 駆けつけたそこは、惨劇と言う他なかった。
「マ、ナ……?」
 立ちすくむマナの手には普段キッチンで見るような、ごく普通の包丁が握られていた。その刃先にべっとりとついた赤黒い液体が、異常なものと認識されて際立って視界に入ってくる。
 足下には、芝で顔が汚れることも厭わず須崎が倒れていた。先ほどまで元気に僕を脅してきた彼女の体から次から次へと流れ出す血液と思われる液体に、僕は動揺を隠せない。
「ケンの言う通り、断ったよ。あたし、ケンの言う通りにしたよ」
 うわ言のように呟き続けるマナ。両手も声も震えていて、唇は引きつった笑みを貼付けている。
「そうしたらね、急に眠くなってね、起きたらたくさん写真を撮られてた」
 うう、と足下で須崎がうめき声を上げた。まだ、生きて……。
「あんな写真、絶対ケンにもハセにも見られたくなかった。だから写真はもっと増えた」
 助けを、呼ばなければ、今ならまだ……頭でぐるぐるとそればかり考えているのに体も声帯も動いてくれない。ここはちょうど公道からも校舎からも見えにくい死角になっていて、助けは呼ばない限り望めない。
「あたしの大切な日常を人質にして、この子はあたしをおもちゃにしたのよ。そして……ケンまで奪おうとした」
 誤解だ。やっぱりマナはあれを見てしまったのか。
「歪んでる、分かってる。私がこんなに歪んじゃったら、ケンは私を嫌いになっちゃうかもしれないでしょ? どうするべきかなんて、もう一つしか思いつかなかった」
 首を動かす事もなく、須崎を目だけで見下ろす真奈美の視線の冷たさに背筋が凍った。
「だからこうするしかなかったの」


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