15.悪夢

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 日没はすっかり早まり、夜道を闊歩しているような感覚に高ぶった学生が街をふらつき始める季節。季節変われど僕や僕の周りは何も変わりはしない。今日は昨日と何も変わらず、今日と何も変わらない明日がやってくる。それを安寧と言わずして何と言うのか。
 でもきっとハセはそれをよしとしない人間だ。一瞬を切り取ることに生き甲斐を感じるマナも、きっと毎日が同じだなんて嘘でも言わないだろう。須崎も、本心こそ分からないが何かを変えようと裏で動き回っているのかもしれない。
 そんな人たちに囲まれながら、僕だけが動かない日常を生きている。
 いや、生きようとしている。
 日常を動かすまいと、そればかりに必死になっているような気さえする。
「……帰るか」
 ハセが勉強よりも生徒会活動に価値を見出している。一方僕は友人が価値を見切った勉強に熱を入れ始めている。僕はいつか彼らみたいに、何かを、洒落た言い方をすれば明日という日を、変えたいと思う日が来るのだろうか。
 少しセンチメンタルに浸りながら、生徒会館を出た。その裏で何か、声が聞こえた気がして僕は体の向きを変える。
『マナ先輩は、あたしのものです』
『そういうことはもう少々抵抗を見せてから言ってくださいね、ケン先輩』
『……そういやマナは?』
『写真部の部室にいたのを見かけたよ。なんか忙しそうというか、厳しい顔をしてた』
 少し、嫌な予感がした。
 不運にもその予感は的中する。空を切るような鋭い悲鳴と、質量のあるものが地面に落ちる音。おそるおそる足音を忍ばせていた僕も、条件反射で物音の方へと駆け出した。


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