14.ナッちゃん

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「ちょっ、なんでモデルになること前提なんだよ。普通に恥ずかしいから嫌だって断れば済む話じゃ……」
 自分で言っていて失言だったことに気付く。
「そんなので断れるなら、悩んでないよ」
 ……全くだ。マナを無理に笑顔にさせるような話の流れを作らないように気をつけながら話す。
「どんな風に須崎はモデルを強要してくるの。脅されたりはしてない?」
「強要だなんてそんな」
「断ってるんでしょ? なのに断りきれないんだから強要って言って言いすぎじゃないよ」
 二の句が継げないまま、
「『憧れ』なんだって……」
 かろうじて聞こえる声量で、マナはうつむき加減に答えた。
「こんな実力もなにもないあたしに、会った時から憧れてるんだって……だからあたしのこと何でも知りたいんだって。交友関係も、普段の過ごし方も……全部知りたいんだって。こんなに後輩に慕ってもらえるの初めてで、嬉しくて、力になれることならしたいっていう気持ちがあるの」
 ナッちゃんは才能もあるし……と付け足した言葉に力はなかった。
「いいか、マナ」
 薄気味の悪さが僕の中で最高潮に達した時、僕は深く考えずに勢いで喋っていた。マナの肩を両手で掴んで、自分の目を見るように促す。
「大切だからって全部知りたがるなんて、そんなの本当じゃない。本当に大切だと思ってるなら、そういうことはちゃんと時間をかけて知るべきことのはずだ」
 ぐっと手に力が入る。ブレザーの下に隠れた肩が震えているのを掌で感じた。
「悪いことは言わないから。勇気と覚悟が必要かもしれないけど……断るんだ、マナ」
 目の前にある二つの大きな瞳に、じわっと透明なものが滲む。ありがとう、とはっきりと言葉にして、マナは僕の胸を借りてしばらく泣いていた。


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