14.ナッちゃん

92

 マナはコンクールで上位の賞をもぎ取る程度にはカメラの腕がある。大人も集まって投稿する雑誌に何度か載ったことがあるとも聞いていた。しかしその彼女が褒めちぎるほど須崎は群を抜いてその才があるのだという。
「この間お家に招待されて、写真の話をいっぱいしてもらったわ。あの慎ましそうなナッちゃんがすごおく楽しそうに話すんだもの、時間が経つのを忘れちゃうくらいだった」
 須崎にとってカメラは幼き頃からの必携品であり、撮り溜めてきたフィルムの数はもう部屋の収納という収納を埋め尽くすほどだったという。
「フィルムって、そんなに大きいものじゃないよね」
 よく知らない知識を知った風に疑問で投げかける。
「うん、フィルムケースとか昔よく見なかった? 片手で幾つか持てるくらいのサイズよ。それが時系列順に箱に並べて全部保管されてたの」
 その几帳面さは逆に薄気味悪さを助長させた。家の中まで完璧すぎるというのか。
「でも今まで撮ったことのない被写体が欲しいんだって彼女が言い出したの。今まで撮ったことないものを、それも自分が大切だと心から思えるものを美しく撮ってみたいって。あんなに熱心な顔もできるのねあの子」
「それがお前の……?」
 言葉を濁してしまう。年頃の男子が聞くにはなかなか際どい話であった。言いにくかっただろうけど、前置きである程度の心の準備はできていたから、マナの話す順番は正しかったのかもしれない。
「写真投稿雑誌に載った女の人の体で、綺麗だなって思ったことはあるよ。構図とか光の差し方とか表情の繊細さとか、やっぱり経験豊富な大人はすごいなって率直に思うもん。でもそれはモデルがプロだったりするからできることでもあるの。あたしなんかじゃ絶対そんな役目こなせられないよ……」


[94/121]
←BACKTOPNEXT→

しおりを挟む



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -