14.ナッちゃん

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 ノックの音が二つ。ゆっくりと開けられるドアの向こうに立っていたのはマナと同じ制服を着た少女だった。
「はじめまして」
 確かに初めましてだった。視線だけで(知ってるか?)とハセに声を掛けたが、ハセは小さく首を横に振った。
「この子、あたしの後輩のナッちゃん」
「一年三組の須崎菜津子(すざき・なつこ)って言います。マナ先輩のお友達ですよね。お話はいつも伺ってます」
「あ、しーっ!」
 慌てたようにマナが後輩の口を手で塞ぐ。先輩の実力行使とやらを見た。調子に乗ったハセが小学生みたいな顔をしてマナに詰め寄る。
「あっれれー? マナちゃんいつもどんな話をしてるのかにゃー?」
「気持ち悪い声を出すなよ」
「いてっ。肘は痛いよケンー」
 茶番を繰り広げている間も須崎とかいう女子はくすくすと控えめに笑い続ける。
「マナ先輩のお話を聞いてたら、そんなに楽しい人たちならどうしてもお近づきになりたくて。お忙しいのにすみません、でもお噂通りですね」
 済まないと思っている表情は1%も見えて来ない。おおかた僕たちの扱い方もマナの話から学んだんだろう。ちらと容姿を確認する。黒い髪は磨かれた宝石のように艶があって、あどけない微笑みを讃える頬の白さは雪のようだった。なるほど、彼女は間違いなく”美少女”の部類に入る。
 何でこんな子が僕らと関わりたがるんだろうと思ったら、とんでもないことを言い出した。
「ケン先輩が、マナ先輩のこと好きなんですよね」
「え?」
 まず飛び出したのはマナの疑問符だった。その上に重ねるように僕も半笑いで答える。
「……え?」
「あれ? 違うんですか?」
 見ればマナは完全に思考が緊急停止モードに入っている。ハセを見れば楽しそうな目で自分で答えなよと煽ってくる。
 ……援護射撃は無し、か。
「想像にお任せするよ」
「ひ、ひ、否定すればいいじゃない」
「好きとか嫌いとかそういう議論は苦手なんだ。いい友人だよ」
「そうですか……それは失礼しました」
 にこりとお手本のように笑うその笑顔を、僕は好きにはなれなかった。この日は結局、適当な話をして須崎は生徒会室を去っていった。どんな話をしたかさえ覚えていない。
 須崎菜津子というマナ繋がりの不思議な後輩が現れた――ただそれだけだったら、良かったのだ。


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