14.ナッちゃん

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 僕の高校の生徒会室は、校舎とは別の建物である「生徒会館」という古ぼけた二階建ての建物の中にある。生徒会館の二階全体を生徒会室が占めていて、一階部分の各小部屋を様々な文化部が許可を得て部室として使用している。写真部の部室がこの部屋のちょうど真下であることもあって、生徒会役員選挙を控えたマナは主に写真部の活動がある月曜と木曜を除いてほぼ毎日生徒会室に出入りしていた。
「予算、減らさないでね? ケン」
「僕の一存じゃ決められないよ。でもまあ、実績次第だよね」
「いや、実際写真部は毎年いい実績保ってるよ。部員の質が落ちないことはいいことだよね。パネルやネガの保管とか遠征にお金がかかって大変なら、実際もう少しなんとかしてあげたいところなんだけどさ」
「さっすがハセ、話分かるぅ!」
 マナが高い声を上げてハセの脇腹を肘でつく。
「……全部マナが毎日のように話してることじゃないか」
「ところで、お客さんはまだなの?」
 ハセが壁時計を見上げる。放課後の時間帯になってから三十分ほどが経っている。今日はマナが、僕らに用事がある人がいると言っていた。
「もうすぐ来るんじゃないかなあ」
「何の用だろう。入会希望?」
「それなら僕たちじゃなくて会長とかを呼ぶだろう」
 僕らはまだただの会計・庶務担当に過ぎない。つまりそんな下っ端の僕らに会いたいだなんて、どう考えても個人的な用事だとしか思えないのだ。
「聞いても『とにかく会いたいんです』としか言ってくれなくて……。自己紹介も自分でするから私からは何も話さないでおいてって言われちゃってて」
「その話しぶりから察するに、後輩か?」
「……内緒」
 表情がイエスと言っていた。マナは嘘が苦手だ。
「それともハセのファンクラブの子か?」
「そんなのあるの?」
「知らないけど」
「適当言うなってば俺がビビる……」
 ファンクラブの有無は知らないが、ハセは実際女子に人気だ。一番近い僕が言うのだから間違いない。ハセが笑えば周りも笑うし、ハセが頑張ろうと一声かければみんなが最後の力を振り絞る。そんなハセの不思議な力を何度目の当たりにしてきたか分からない。
「ははっ、ハセがビビるとかウケる」
 僕とハセと、同じ空間を共にするマナ。
 きっと僕はハセの輝きに掻き消されて、彼女の目には映らない。


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