14.ナッちゃん

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 真っ白なワイシャツを、例年より強い夏の陽射しが照りつける。僕たちは当然のように進級し、高校二年生の夏を迎えていた。
「もうすぐ生徒会選挙だね。緊張する……」
 弁当の蓋を開け小さく手を合わせながら、僕は生徒会室でいつも通りハセとマナと他愛のない話をしていた。
「お互い頑張ろうな」
「まあ、僕は信任投票だけどね」
 安心と優越が混ざった視線で二人を眺めながら、母親の配慮から梅干しが常時入った弁当の蓋を開ける。僕とマナは生徒会副会長に、ハセは生徒会会長に立候補する。僕は対立候補がいなかったために一安心だが、会長のポストには生徒会活動に今まで無縁だった運動部の男が、女子副会長のポストにはよく知らない女子がもう二人立候補した。でも僕が思うに、そんなの彼らの敵じゃない。
 紙パックの野菜ジュースをチューと吸いながら、おかずの入った僕のボックスをハセがじろりと覗いてくる。
「また野菜ばっかりかよー。お前いつタンパク質とってんの?」
「朝と夜。嫌でも母親が出してくるよ」
 肉や魚といったたんぱく質がどうも苦手なのだ。味とかそういうのが嫌いなのではなくて、肉を食べるという行為に軽い嫌悪感さえ感じる。それらしいきっかけも無いので、自分でも不思議なのだ。
「それより野菜ジュースは案外カロリーが高……」
「そだ、ハセ。あの子とは結局どーなったの?」
 僕の説教を遮って、マナが目を輝かせながらハセに聞きだした。あの子……?
「……付き合った」
「え!」
「もう終わったー」
「ちょ!」
 僕の知らないところでまたハセの色恋事情が進んでいた。あの子がどの子なのかもうさっぱりわからないが、こんなことは中学からしょっちゅうだ。
「お前モテるのに長続きしないな」
「当事者的には勝手に喜ばれて勝手に泣かれて勝手に怒られて終わってるだけなんだけどね」
「……当事者にしては冷たい分析ですこと」
 マナが呆れたようにため息をついた。
「ハセみたいなイケメンとは一度でいいから付き合ってみたくなるのかなあ。”ステータス"っていうの? 私には分かんないや」
 あはは、といつもの調子で朗らかに笑うマナのおかげで、たとえ食事中でも生徒会室の埃くささは全く気にならなくなる。
「マナはケンとだったら付き合うわけ?」
 楽しそうにニヤつきながら、ハセが話をマナに振る。
「は? ないない! ケンみたいなの好きになるなんて、ぜっっっっっっったいない!」
 さようですか。とりあえず文句だけは言わせてもらおう。
「何でもいいけど、とりあえずちっちゃい"っ"が多い」
「足りないくらいよ」
 言いあう僕らに向かって口笛を吹くハセ。こいつ、どこまでも馬鹿にしてくる。
「仲いいのにもったいねえよなあ、お前ら」
「あり得ないね」
「あり得ないわ」
 よし、僕の方が早かった。
「……はい」
 畳みこむような僕とマナの否定に、なぜハセが肩をすぼめるのかはよく分からなかった。


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