2.茜

静かな決意

目が覚めたとき、部屋の時計は1時少し前を過ぎていた。倒れこんだまま眠ってしまったはずなのに、体の上には分厚い毛布がかかっている。
誰かがかけてくれたのだろうか。そう思いながらゆっくりと起き上がり毛布を畳もうとしたとき、ドアがトントンと音を立てた。沙織は立ち上がり、ゆっくりとドアを開けた。戸の前には、パジャマ姿の結李が立っていた。

「どうしたの?こんな時間に…」

沙織は驚いて言った。結李は普段見せない不安そうな顔で俯いている。

「入っても…いい…?」

小さな可愛らしい声でポツリと呟かれた言葉に、沙織は心底驚いて言う。

「別にいいけど…ど、どうしたの、本当に!」
「お姉ちゃん!」

結李が、戸を閉めた沙織に抱きついてきた。人形のようにくりっとした大きな目に涙をいっぱい溜めている。
沙織は驚きを通り越して、慌てふためいた。

「お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃあん!」
「ど、どうしたのよ。ね?お願い、何か言ってくんなきゃわかんないわ」
「…お姉ちゃん…お姉ちゃん、変わらない…よね…?」

結李が泣きじゃくりながら言った。沙織はへ?といかにも間抜けな声を出した。

「結李があんな話して…だから、お姉ちゃん降りてきてくれなくて…何回も、何回も呼んだのに…トラ、ンプしようって…呼んだのに…」

一瞬沙織は混乱したが、すぐにそれが自分が寝てしまっていた間のことだとわかった。

「お姉ちゃ…お姉ちゃんも、変わっちゃったらどうしようって…今まで優しかったのに…やさしかったのに…変わんないで…変わっちゃ嫌あ!」

結李は本気で言っていた。沙織は泣きじゃくる結李を抱き締めて、背中を撫でてやった。
少し微笑みながら言う。

「馬鹿ね、お姉ちゃんは変わったりしないわ。今日はただ疲れて眠ってしまっただけなの。ママにきかなかった?」
「きいたけど…そっとしておいてやれって…」

なるほど、それで余計不安になったのか。沙織は苦笑した。結李が手の甲で涙を拭きながら言った。

「ねえ、絶対?絶対に変わらない?絶対絶対って、約束してくれる?」
「当たり前よ。約束なんて、何回だってしてもいいわ。ほら、指切り」

沙織は微笑みながら小指を差し出した。その指に、結李の小さな小指が絡んできた。

「ね?約束よ」

結李は小さくこくんと頷いて、にっこりと笑う。


この先何が待ち受けていようとも、私は絶対に自分を失わずに貫き通してみせるーーー。

沙織は密かにそう決意した。

***

普段はどんなに遅くとも12時までには布団に入っていたので、沙織は次の朝寝坊した。
とはいえ、普段沙織は始業の30分前には学校に着くよう心がけているから、さして影響はなかった。家を出るとき、恵理子の縋るような視線を背中に感じた。

「沙織ちゃん」

振り向くと、やはり恵理子が心配そうな顔で沙織を見つめていた。

(…黒田先生には歯向かうなってことね)

今更言われてももう遅いーーー。
沙織は内心苦笑したが、微笑んで言った。

「分かってます、気をつけますから。行ってきます」


[10/15]

←BACKTOPNEXT→


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -