2.茜

告げられた噂噺

「なんかね、結李の友達ね、そこの神社に住む咲ちゃんなんだけど……お姉ちゃんと同い年のお姉ちゃんがいるんだって。そのお姉ちゃんね、小等部のときから葉月ヶ丘に通ってたらしいんだけど、ほら、葉月ヶ丘って中等部と小等部の交流って多いでしょ? たまたまそのお姉ちゃんが小5くらいのときに担任の先生がひどい事故で一ヶ月くらい休んじゃって、代わりに当時まだ新人同様だった黒田先生が臨時担任として中等部から来たらしいの。そのときに、そのお姉ちゃん何でかわかんないけど先生に反発して、ある日家に帰ってくるのがすごく遅かった日があったんだって。たまたまそのお姉ちゃんのママは夜遅くまで仕事してたこともあって、学校側は疲労からの体調不良だろうから保健室で休ませてから帰らせますますって言ってたらしいんだけど…その日の夜遅くにお姉ちゃんが家に帰ってきたとき、制服もボロボロになって破れていたりして、腕にはひどい傷ーーーあとが残るような傷ができてたって。しかも、その次の日、お姉ちゃんが大親友だった友達が強制退学になったって。ね?偶然だとは思えないでしょ?」
「結李!! そんな話、どこで聞いたの!! いつきいたの!?」

 恵理子が珍しく語調を強めて問い詰めた。その声は上ずっていた。

「だから……この前沙織お姉ちゃんがこの家に住み始めたとき、結李ね、嬉しくて友達みんなに言ったの。私にお姉ちゃんができたんだよって。従姉のお姉ちゃんだけど本当のお姉ちゃんみたいに優しくて、一緒にいると安心するのって。そしたら咲ちゃんが、結李のお姉ちゃんは結李のお母さんとも仲いいの? って聞いてきて、仲いいよって答えたら、いいなあって。それで、どうして? って聞いたら、私にも年の同じような姉がいて、私には優しくしてくれるけど、お母さんには完全に心を閉ざしていて、常にどこかに他人と線をひいてるんだって。咲ちゃんはそんなお姉ちゃんを見てるのがすごく辛いのって言ってた。それで、どうしてそんなことしてるの? 生まれたときからそうなの? って聞いたら、さっきの……黒田先生との事件以来、家に帰ってからだんだんおかしくなっちゃったんだって。咲ちゃんはその事件のせいじゃないのかなって言ってたけど……結李もそうなんじゃないのかなって思ったの。そのお姉ちゃん、その心の傷を忘れるためにわざと他人と線をひいて、強がってるんじゃないかなって」

 沙織は息をのんだ。もし今日、茜が来てくれなかったら、自分も同じようになっていたのだろうか。そう思うとゾッとした。
 恵理子も沙織と同じように青い顔をして息をのんでいた。

 それからどのくらいたったかわからない。重苦しい沈黙のあと、恵理子が細い声で言った。

「沙織ちゃん……ほんっとうに、今日のことは黒田先生と関係ないのね?」
「ありません……!」

 考えている暇はなかった。もし今、今日のことを伝えれば、間違えなく恵理子は動揺する。
 沙織は小さくごちそうさまとだけ言うと、早足で自分の部屋に戻ってベッドに倒れこんだ。
 宿題はあったが、やる気になれなかった。もう何も、考えたくなかった。

 沙織はとろとろと眠りに落ちた。


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