▼ 03
顔を両手で掴み、逃げられないように固定する。始めは何だか分からず動かなかった九条も舌を潜り込ませれば、ようやく自分の置かれている状況に気が付いたらしい。俺の胸に腕を突っ張り、必死に逃げようともがきだした。
「んっ、ふぁ…んんっ、や…っ」
角度を変えながら何度も執拗に口内を舐る。耳に響くのは掠れた男の声だったが、気持ち悪いとも可愛いとも思わなかった。つまりどうでも良かった。
ドン、と強い拳で胸を叩かれ、唇を離す。最後に下唇を甘噛みすると、奴は大袈裟とも言えるほど身体を震わせた。
「はー…っはぁ、てめ、何を…」
「俺は嬉しいよ。お前がこんなに頑張ってくれて」
にこりと優しく笑えば、今まで俺を睨んでいた瞳から毒気が消える。
…やっぱりな。ほら、絶対そうだと思った。
「あ、あの…せ、せんせーの、おかげだから…ひっ!?」
机の上にその身体を押し倒す。ぐっと顔を近づけて、俺は口を開いた。
「お前、俺のこと好きなの?」
「はぁ…っ!?な、何言って…」
かぁ、と効果音がつきそうなほど紅く染まる頬。
「…ふ」
口元が緩むのを抑えられなかった。喉の奥からこらえきれない声が漏れる。
「は、はは…っ」
笑える。本当に笑える。もともと頭のおかしい奴だとは思ってたけど、まさかここまでとは。
従順でも忠誠でもない。こいつが俺に向けていたものが、恋慕の情だなんて。
「何、笑ってんだよ」
「これが笑わずにいられるか。お前馬鹿じゃねぇの?何簡単にほだされてんの?自分が何されたか忘れたわけ?」
「だから好きじゃねぇって言ってんだろ!」
「自分の顔鏡で見てくれば」
顔を背けようとするので、無理矢理掴んで真っ直ぐにこちらを向かせた。視線がうろうろとそこら中を彷徨っている。俺の顔を直視できないのだろう。
「俺に褒められて嬉しかっただろ?優しくされて勘違いしただろ?」
「ちが、俺は」
「違わない」
苛々する。俺が望んだのはそんな気持ちじゃない。気持ち悪い。ちょっと優しくされたくらいで簡単に揺らいで、心底うんざりする。誰がそんなこと頼んだ?誰が好きになれなんて言った?
「お前、つまんねぇ」
九条は唇を噛み締め、鋭い視線で俺を睨んだ。
「…っ、死ね!」
初めて会ったときのような、いやそれ以上に憎しみのこもった瞳。
「やればできるじゃねぇか」
それだよ。それ。余計な感情なんて抱かなくていい。俺に逆らって、躾けられて、従って。それだけでいい。他には何もいらない。
今から嫌って言う程、教えてやるよ。
「んっ、ぐ…!」
再び唇を塞ぐ。ジタバタと俺の下でもがく九条。机が軋む嫌な音がした。
「は、ぁ…っあ、んん、んぅ…、てめ…っふ、あ」
「黙ってろ」
「ん―ッ!ん、やっ、んん、あ、ん、うぐ…!」
…本当にうるせぇな。こいつ。
逃げ惑う舌を追いかけ、優しく絡めあわせる。軽く歯を立てる。強く吸う。そうしているうちに奴の身体から段々と力が抜けてきた。
その隙をついて制服のズボンを脱がすと、既に反応を見せ始めている下半身が視界に映る。…ふ、さすが馬鹿犬。キスだけでもう勃ってんのかよ。
「あっ、んん、ふ…っんんん!?」
下着の中に手を入れ、力任せにソコを握った。さすがの九条も気が付いたらしく、ビクビクと身体を痙攣させる。
「ん゛―――ッ!んっんっ!ん゛ん゛!!」
痛い程されるのがいいんだっけ、と思い出し、手加減なしで激しく扱いた。
「んぅ、ん、んっ…!ん、あっ、ん゛」
案の定すぐに透明な蜜を滲ませる先端。手を動かすたびにくちゅくちゅと濡れた音がする。漏れ出る声が甘さを含み始めた頃合いを見計らって、唇を離した。
「は…びっしょびしょ」
「ふぁぁっ、あ、やめ、や…っだ、くそ、こんな…あぁぁぁッ」
「逃げるなら今のうちだぞ」
「うっあ、ん、んっはぁぁ!やだ、っや…!」
「もうイくのか」
相変わらず早い。ピンと突っ張られた脚に指を這わせ、内ももに何度も何度も吸い付く。まるで恋人同士のような愛撫に、九条は背中を反らして悦びの声を上げた。
「や、やだ、せんせ、も…っやめ、俺…ッあ゛、あぁ――!!」
勢いよく吐き出された精液を掌で受け止める。白く生暖かいその液体が、古臭い床にいくつもの染みを残した。
prev / next