DOG | ナノ


▼ 02

…まぁいい。こいつが真面目に勉強するようになれば、それは全て俺の手柄になるからな。周りの評判を上げておくに越したことはない。

全ては自分のため。そうじゃなきゃ、こんな割に合わないことするはずがない。

「一回しか説明しないからな」
「教えてくれんの?」
「その代わりテストでいい点取らなかったら本気でぶん殴る」
「…」
「返事」
「…分かった…」
「じゃあ先にこの部分からやるぞ」

授業での説明をさらに簡単にまとめて説明すると、奴はうんうんと頷きながらメモをとる。正しいペンの持ち方に慣れないのか、書き辛そうに一文字一文字を丁寧に記していた。

文句を言いたげな表情ではあるが、基本的に素直なのだろう。俺の言うことをきちんと聞いている。…いや、俺が怖いだけ、か?

「はい。これで説明終わり。これで分かんないなら諦めろ」
「大丈夫。多分…分かった」
「んじゃさっさと帰れ」
「先生はまだ帰んねーの?」
「俺のことなんか聞いてどうする。お前に関係ないだろ」
「また質問しに来てもいい?」

…なんなんだ、こいつは。

何で俺に付きまとってくるんだよ。意味が分からない。あんなことされた人間に対して、自分から近づこうとするような真似をするか普通。

従順、忠実。俺が望んでるものと、こいつが最近俺に対して向けているものは少し違う気がする。

「好きにすれば」
「じゃあせんせー暇な時間教えてよ」
「俺に暇な時間なんかない」
「いつも他の奴らに勉強教えてんじゃん」
「うるせぇもういいから帰れ」

…なんていうか、懐かれてる、みたいな。



なんだかんだでテスト期間はあっという間に過ぎていった。

「今日はこの間のテストを返却するからな」

えぇ、と生徒から抗議の声が上がる。うるせえなこのくらいのことで一々騒いでんじゃねぇ、と言いたい気持ちを抑え、優しい笑みを顔に貼りつけた。

「出席番号順に呼ぶから、取りに来ること」

まぁおおむね出来は悪くない。平均を下回っている奴がクラスに一人か二人いるくらいか。それ以外は大体そこそこの点数をとってきていた。

「じゃあ次…九条」

名前を呼ばれた九条が、少し緊張した面持ちでこちらへやってくる。それをクラス中が信じられないような目で見つめていた。

「よく頑張ったな。平均より10点近く上だぞ」
「え…」

よしよし、と最大級の笑顔で金髪頭を撫でると、九条はぶわっと頬を紅く染める。何だコイツ気持ち悪い…とはやっぱり言わない。あくまで今俺は爽やか教師だ。

「嬉しいよ。次はもっといい点数をとれるように、何でも協力するからな」

こいつが真面目にテストを受け、教師に褒められている。たったそれだけのことが、生徒たちにとって衝撃だったのだろう。何故か拍手が湧き起こった。

「あ、あの、せんせー…」
「ん?」
「あ、あり、ありがと、う…」
「どういたしまして」
「…っ」

いつもは少し鋭い光を宿しているその瞳に、喜びの色が混じるのが見える。そこでふと思い出した。あぁそうか。そういえばこいつ、俺に褒められたがってたっけ。

…クソが。嘘の顔した俺に褒められて、何簡単に喜んじゃってんの?本当馬鹿みてぇ。

「九条、放課後資料室に来い」
「え」
「ご褒美、やるよ」

奴にしか聞こえない声で囁く。

ご褒美、やるよ。とびっきりのご褒美をな。



カタン、と控えめな物音がして顔を上げると、入口に九条が立っていた。約束通りちゃんと来たようだ。

「さっさとドア閉めろ」
「…また変なことする気じゃねぇだろうな」
「いいから閉めろっつってんの」

少し強い口調でそう言えば、九条は不満げな表情を見せる。しかしそれ以上は何も言わない。逆らっても無駄だということがようやく分かってきたのだろう。

「テスト、頑張ったんだな」
「え、あ…うん…ぶん殴るって、言われたし」
「やりゃあできんじゃねぇか」
「へ」
「ご褒美やるよ」

未だ入口の前に立ったままの奴を思いっきりこちらへ引き寄せる。

「んっ!?」

そして、その唇を塞いだ。

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