▼ 04
「…はや」
笑いを含んだ声で呟く。
「っせぇ…!も…何なんだよ!つまんねぇって言ったくせに…っ何でこういうことすんだよ!」
「知りたい?」
「ひ…っ、ちょっ、何を…」
べとべとになった自分の指。それを尻の穴にあてがいながら、九条を見下ろした。
今にも泣き出しそうな顔。怯えた顔。恐怖に支配された顔。
――そう。俺が欲しいのは、そういう顔なんだ。
「二度とこれが恋だなんて思えなくしてやる」
「い…っ!!!」
ズブ、と指を差し込む。本来排泄器官として機能しているそこは、当然何かが侵入できる造りではない。奴の顔が苦痛に歪んだ。
「っあ、ぐ…!やめ、どこ触って…!」
「ケツの穴」
「いっ…てぇ、いてぇ!抜け!抜けって…っあぁぁ!」
「うるせえな。黙って力抜け。入んないだろうが」
「ひ、うう…っ」
はぁはぁと荒い呼吸が聞こえる。固く閉じられた瞳から涙が零れるのが見えた。
「前も触ってやるから」
「いっあぁぁぁッ!やだ、もう…っむり、むりぃぃぃ!」
「九条」
名前を呼びながら耳を舐めると、九条はきつく俺にしがみ付いてくる。その瞬間、少しだけ穴の力が弱まるのが分かった。
「っあぁぁ、あ、せんせぇ…っいやあ!あ、あ、ったい…!」
「九条」
「んっぐ…あぁっ、あ、な、なに…っひあぁぁぁぁ!」
「もう少ししたら良くなる」
「んんっ、ん、あぁ…っあ、あっ、やだ、いやだぁ…せんせぇ、もう、こんなこと…」
「お前が俺のことを好きだっていうなら、やめない」
「なんで、なんでぇ…っ、なんでだよクソ…っは、うぁぁん!?」
探るようにあちこちの襞を指で押さえていると、ある一点で一層高い声が上がる。どうやらここがいい場所らしい。男のケツの穴の構造なんかよく知らんが、俗に言うGスポットってやつだろう。前立腺、だっけ。
「いやぁぁぁぁぁっ、だめ、だめ、そこいやだぁぁぁっ!」
「うるせぇ」
「せんせ…っふぁ、あぁぁっあっあっひうぅっひぎっ、あぁぁぁ!」
髪を振り乱して絶叫する九条。しがみつかれているせいで、ワイシャツが涙やら涎やらでぐちゃぐちゃだ。どうしてくれんのこれ。
不規則に蠢く腸内を何度も何度も犯す。最初は一本しか入らなかった指がいつの間にか三本に増え、痛みで萎えていた奴の性器は今や完全に芯を取り戻していた。おまけに我慢汁をだらだらと滴らせている。
「せんせぇっ、あぁぁっせんせ、せんせい、あぁっも、頭、おかしくなる…ッ!!」
「もう十分おかしいだろ」
無意識のうちに舌打ちが飛び出す。
「せんせ…ッ!せんせぇぇっ、はぁっはぁ、あぁぁっ、も、イく、イくから…」
呼ぶな。そんな声で俺の名前を呼ぶな。
お前は勘違いをしている。俺に抱いているその感情は恋なんかじゃない。
今まで誰も構ってくれなかったから。どんなに好き勝手しても許されていたから。どんな形であれ、自分を縛ってくれる人間に出会えて錯覚しているだけだ。
何が褒められたいだ。気持ち悪いんだよ。つまんねぇんだよ。折角虐め甲斐のある奴を見つけたっていうのに、何勝手に甘っちょろい幻想なんか抱いてんの?
…これだから、餓鬼は嫌いなんだ。
「あ゛ぁぁぁぁ―――ッ!」
二度目の絶頂。後ろに埋め込んだ俺の指を締め付け、奴はガクガクと腰を浮き上がらせて吐精した。
「はぁ、あ…っあ、んん…」
全身を弛緩させ、ぐたりとその場で脱力する。指を引き抜くと小さな喘ぎ声が上がった。
「…ケツでイくとか、どんどん変態度が上がっていくなぁ九条」
「…っひでぇ、ひでぇよ、先生、なんで…」
「ひどいのはお前だ」
俺の期待を裏切りやがって。
「俺、俺は…アンタが…」
「言ったら殺す」
「っなんでだよ!!」
なんで、と泣き出す九条。
「嫌いだから」
「…っ」
「うんざりなんだよ。どいつもこいつも簡単に騙されやがって。何が好きだ。誰がそんなこと許可した?勘違いも大概にしろ」
「勘違いなんかじゃ…」
「それでも俺とどうにかなりたいって言うなら、これだけは頭にいれとけ」
「ぐっ…」
シャツの襟を掴んで引き寄せ、耳元で囁いた。
「犬としてなら、抱いてやる」
二度とこれが恋だなんて勘違いしないよう、躾けなおしてやる。
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