DOG | ナノ


▼ 07

次の日の朝。俺は呑気に平和ボケしていた自分を蹴り倒してやりたくなった。

「藤城先生、昨夜は随分お楽しみだったことで?」
「徹平が戻ってきたときの俺の気持ちわかります?あんな顔で放り出すなんてどんな神経してんですか」

右に中津川、左に市之宮。周りに聞こえないように控えめな声ではあるが、左右同時にネチネチと責め立ててくるものだからたまったものではない。折角の朝食が台無しだ。

わかっていた。この二人が同行している時点で、ただでは済まないことくらい。だがうるさいものはうるさい。黙れ九条モンペ共。

「ケダモノですわ。貴方は人の皮を被った獣です」

そもそも、同室の市之宮はともかく、何故中津川が昨晩の九条の様子を知っている。どうせまたいつものストーカーだろうが、一体どこまで把握してるんだ。

「……二人とも、早く食べないと時間がなくなるんじゃないですか」
「俺たちは今、朝食よりも大事な話をしてるんです」
「そうですよ。自分が何をしでかしたか本当にわかっているんですか?」

あぁもう。うるさい。俺だってあれが正しいことだとは思っていない。

「批判は全面的に受け入れる。俺だってするつもりはなかった」
「自分から呼び出しといて何を今更……」

市之宮が味噌汁を啜りながら吐き捨てるように言った。お前は最初に会ったときよりも随分と可愛くなくなったな。そんなに俺を目の敵にするくらいなら、堂々と奪いに来ればいいだろうが。

「なんで俺が呼び出したってわかるんだよ」
「携帯を片手にうきうきしながらちょっと出てくる!なんて言われたら、相手なんて嫌でも想像つくでしょ」
「……」

あの馬鹿。ちょっとは取り繕う努力くらいしろ。俺は眉間を指で押さえた。

「貴方の声が聞こえた瞬間、私は即座に聞くのをやめましたよ。この犯罪者」

お前は盗聴をするな。犯罪者はどっちだよ。

「何の話?」

ようやく食事をとり終えたのか、九条がやってきて俺の向かいの席に座った。その皿にはたんまりと様々な料理がのっけられている。いくらバイキングだからといって朝から張り切りすぎだ。

「昨日の夜の話」
「昨日の夜……」

市之宮が意味ありげな声で返事をすると、九条はわかりやすく頬を染めた。おいやめろ。お前がそんなんだから俺が今責められてるってことを察しろ。

「徹平、昨日の夜どっか行ってたよね?何してたの?」
「え……っ、別に、売店にジュースとかお菓子とか買いに」
「藤城先生と?」
「そっ、れは」

九条がちらりと俺を窺ってくる。どうせうまいこと誤魔化せなんて要求してもうまくいかないので、俺が代わりに「そうだ」と答えた。市之宮が不機嫌そうに眉を寄せる。

「先生には聞いてません」
「それは悪かったな」
「つ、司」
「何?」
「先生のこと、怒んないで……」

九条の一言に、俺も市之宮も中津川も思わず無言になってしまう。

「はー……お前なぁ」
「はぁ……もうホントさぁ、徹平……」
「九条くん……」

そして同時に溜息を吐いた。

「えっ、えっ、えっ、何?俺何か変なこと言った?」

訳がわからないと慌てる九条に、俺はいいからと首を振ってみせる。

「早く食べてしまいなさい。集合時間に間に合わなくなるぞ」
「うん……?」
「飲み物は」
「あ、忘れてた」
「とってくる」
「紅茶がいい」
「ミルクだろ。ここに座ってろ」
「ありがと先生」

ありがとうも何も、ここを離れる口実ができて万々歳だ。席を立とうとする俺を、市之宮と中津川がじっと見てくる。

「……何ですか」
「いえ……」
「なんか……」
「何」

何もないなら見るな。何かあるなら言え。視線だけでそう促すと、二人は顔を見合わせて再び溜息を零した。

「言いたくないですけど」
「言いたくないですわね」
「……普通にそういう会話もするんだって」
「えぇ」
「……」

そういう会話って、そりゃするだろ。まさか俺がいつもいつもこいつのことを罵倒し続けているだけだと。そんなわけあるか。

「まぁ、一応」

一応、の後に続く言葉は「付き合っているから」だ。言わないけど。

「?」

嫌そうな顔をする市之宮と中津川と、それをふんと鼻で笑う俺。そんな中、九条は一人状況を飲み込めずに首を傾げながらもくもくと飯を食っていた。呑気な奴め。

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