DOG | ナノ


▼ 05

トイレットペーパーで濡れた口元を拭っていると、九条がぎゅっと首に抱き着いてきた。

「……何」
「へへ」

触れる肌が熱い。少し汗ばんでもいる。でも不快だとは感じなかった。

「やっと、先生に触れた」
「やっとって、たかが二日三日だろうが」
「たかがじゃねーよ。こんなに近くにいるのに、旅行なのに、近づくなとかひでーこと言うし」
「仕方ねぇだろ」
「わかってる」

わかってる、と九条はもう一度繰り返す。

「嫌になったか」

隠さなければならない関係を。堂々とできない後ろめたさを。

俺はまだいい。始める前から予想できていたことだし、別に苦に思ったこともない。

だけどこいつは違う。まだ大人でもなんでもない、未熟な子どもだ。そんな子どもに後ろめたい気持ちを背負わせてしまうことに、罪悪感がないわけではない。

「全然嫌じゃない」

九条は抱きしめる腕の力を強め、そう言った。

「折角一緒なんだから、先生とも思い出つくりたいってだけ」
「……思い出って」
「なんでもいい。先生と一緒にいたっていう記憶が欲しい。写真も撮りたい」

だからお前はなんでそういう女子みたいなことを。

「先生?」

肩口に額をくっつけるようにして抱きしめ返す俺を、九条が不思議そうな声で呼ぶ。

「どうしたの」
「……いいよ」
「うん?」
「写真」
「いいの?」
「その代わり、二つ条件がある」
「二つ?」
「一つめ。明日の班行動も大人しくいい子でいること。問題起こすなよ」
「わかった!超いい子にする!」
「言ったな」
「おう!じゃあ二つめは?」
「二つめは」
「んっ?」

くるんとその身体をひっくり返し、ドアに押し付けた。俺も立ち上がり背中にぴったりとくっつく。

「え……っ、え、え、まさか続きすんの……?」
「する。何のために後ろ慣らしたと思ってんだ」
「そ、そっか、そうだよな」

腰を掴んで引き寄せ、孔に先端をあてがう。九条が小さく悲鳴のような声をあげた。なんだよ俺は痴漢か。そんな怯えなくてもいいだろ。

「先生……」
「何」
「……た、勃ってる」
「……」

いちいち言わなくていい。そういうことは。

「声、我慢できるな?」

こくこくと頷く。

「入れるぞ」

返事を待たずに挿入を開始させた。

「ぁ……う、ん……っ、っん……!!」

一気にではなくゆっくりゆっくりと慎重に腰を推し進めていくが、それが逆に辛いのか、ドアについた九条の拳はきつく握られている。首の後ろから耳朶まで、見えるところ全てが桃色に火照っているのが面白く、俺はバレないように小さく笑った。

「ひう……ッ」

後ろから柔らかく耳を食んでやると、中がきゅっと締まって気持ちがいい。

「せんせ……」

全部が入りきった頃、九条が息を乱しながら俺を呼ぶ。

「ん」
「ふたつめ、なに……?」
「ああ」

先程の話の続きか。

「二つめは」
「う、ん……っ?」
「俺が好きか?」
「す、すき?」
「俺が好きなら、好きって言え。それが二つめの条件」
「なに、それ……」

なんだろうな。俺にもわからない。

「いっつも、言ってんだろ……」
「今」

ずるずると引き抜いて、また少し押し込む。

「なぁ、言えって」

もどかしいくらいの緩慢な動きに、九条の肌に鳥肌が立っているのがわかった。

「す、すき、好きっ、すきぃ」
「なんで?」
「かっこいい、から……っ」
「それだけかよ。俺の価値は」
「あと、やさ、しい、っ……、ぁっ、は……」
「かっこよくてやさしいから好き。ありきたりだな」

九条が振り返って睨んでくる。本人は抗議のつもりなのだろうが、その瞳は快感で潤んでいて迫力の欠片も無かった。

「い、意地悪い、今日の先生、意地悪い……っ」
「虐められるの好きなくせに?」
「あ、ぁあ……ッ、ん」

あまり激しく動けないので、小刻みなストロークで奥を叩く。九条は押し殺したような声で喘ぎ、カタカタと小さくドアが揺れた。多分ここに誰かが入ってきたら、中で何が行われているかは一目瞭然だろう。

「なぁって、聞いてんの?」
「すき、すきぃ……ッ、いじわるいの、すき」
「へえ。変態だもんな」
「先生が、変態に、したんじゃんかぁ……っ」
「人のせいにするな」
「んんん………ッ!!」

耳を強く噛んだ瞬間、びくっと大きく九条が腰を跳ねさせた。手で前を探ってみると、とろとろと力なく精液が滴っている。

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