▼ 04
九条はただ黙って俺の話に耳を傾けている。黙って、というよりは俺の言っていることがよく理解できず聞き流しているだけなのかもしれない。だけど、それが心地良かった。
――応えられないから痛い。
じゃあ、俺にとってこいつの好意がそうじゃなかったのは。
誰かの決定的なものになりたくない。
なのに、唯一を望んでしまうのは。
――最初から、「応えられない」わけじゃなかった。
こいつの気持ちが育っていくところを、俺は最初から全部見てきた。最初から全部、知っていた。
過程を全て見てきたことで、俺もそれに合わせて自分の気持ちを整理することができた。だから俺を好きになったことで九条が変わったとしても、それは怖いことなんかじゃなくなった。
「なんだよそれ……」
馬鹿はどっちだって話だろ。散々回りくどいことをしてきたくせに、行きつく先は結局ここだったってことだ。俺の今までの葛藤はなんだったんだ。徒労か。いや違う。
こうしていられる現実が目の前にある時点で、今までのことは徒労なんかじゃなかった。
「……気持ち悪い」
なんて、そういう考えに至る自分も気持ち悪くて仕方がない。
どうしてしまったんだ。俺は。とうとう気でも狂ったか。
「痛い?気持ち悪い?先生具合悪いの?大丈夫?」
「頭が痛い」
いい。これには気づかなかったことにしよう。わざわざ曝け出してしまうことでもない。俺の胸奥深く、重りをつけて沈めておきたい。できれば永遠に。
「俺どうしたらいい?保健の先生とか呼ぶ?」
「アホか」
慌てる九条の腹に再び顔を埋める。
「何もしなくていい」
「そんなわけにはいかねーだろ。頭痛薬とかなら持ってるけど…あ、でも人の薬だと合わないこともあるだろうし、やっぱ……」
「俺が勝手にする」
「へ?」
服の裾を捲り、むき出しになった肌に口付けた。
「え……っ、ちょっ、先生」
「あぁでも、時間ないから協力はしろよ」
「んぐっ」
指を口に突っ込んでやる。
「舐めろ」
「……っ」
俺の言葉でこの先の展開を悟ったらしい九条は、ぼっと顔を紅くした。口の中に指を突っ込まれたまま暫し俺の顔を落ち着かない視線でちらちらと窺っていたが、観念したのか素直にそれを舐め始めた。
「ん、んん……、ん」
ぴちゃぴちゃと小さな水音を立てながら指をしゃぶる九条。部屋着なのか割とゆったりめのスウェットを履いていたが、そこからでも徐々に性器が主張し始めているのが見て取れた。
「人の指舐めて興奮してんのかよ」
九条が潤んだ目でこちらを見る。図星だ。
「もういい」
「んっ」
「下、脱げ。全部」
指を口内から抜き取りそう命令すると、九条は赤い顔のまま無言でズボンと下着を膝までずり下げた。丁度俺の顔のあたりに下半身があるので、勃ち上がった性器も丸見えである。九条を見上げると、羞恥でいっぱいなのか今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「指入れるから、痛かったら言え」
「ん……」
片手で尻たぶを掴んで少し開かせながら、ゆっくりと一本指を差し込む。同時に口を開けてペニスを咥えようとすると、九条がびくりと腰を引いた。
「ま、待って、うそ、そっちも……?」
「なんだよ。不満か」
こっちは時間が無いから早く解こうとしてやってるんだ。同時にやったほうが絶対に早い。こいつ、すぐどろどろになるだろうし。
「両方とか絶対声出る。抑えらんねぇ。無理」
「……無理でも抑えろ」
「だから無理……ッ、あ、う……〜〜〜〜っ!!」
無視してかぷりとそれを口に含む。すでに先端は濡れそぼっていて、舌先に独特の味が広がっていった。
「ん゛……ッ、ふ、……っ、ぅ、……っ、ッ」
くちゅくちゅと中を掻き混ぜながら、ペニスに舌を絡める。九条は両手で口を覆って我慢しているようだったが、堪え切れない小さな喘ぎが漏れ聞こえた。
「……ぅ、ん……ッ、ん、ん……―――っ」
「こら、逃げんな」
無意識に逃げようとしている腰を片手で引き寄せ、愛撫を続ける。
「ぁ……っ!?ん゛……っ、っ、ぐ、う……ッ」
段々と口の中にあるものが膨らんでくるのがわかったので、射精を促すように指の腹で中のしこりを強く刺激してやった。
「だ……っめ、だめ、先生、それ、出る、出る……っ」
九条の身体がびくびくと震え出す。俺は一旦口を離し、指の動きだけに意識を集中させた。
「駄目。まだ出すな」
「なんで、イく、もう出るのに……ッ、なんでだめ……っ?」
「ちゃんと中でイけ」
「んん……っ、ん、んん…っ!!」
指の本数を増やし、ひたすら抜き差しを繰り返す。九条が両手で俺の髪をくしゃりと掴んできたが、別に痛くはなかったのでこんなときでも力の加減をしているのかと少しおかしくなった。いつも俺に怒られているため、さすがに学習したんだろう。
「あぁ、っう…、……っ、んっ、ん、ん……っ」
「九条」
「ん……ぁっ……な、に……?」
下腹に吸い付きながら名前を呼ぶと、蕩けた声が返ってくる。
「俺の動き、想像しろ」
「せんせーの……?」
「いつもこんな風に突かれてるだろ」
とん、とん、と規則的なリズムで奥めがけて叩いてやる。「いつも」と同じ動きで。
「……っ」
九条が目を見開いた瞬間、中にある指がきつく食い締められた。言われた通り、俺とのいつものセックスを想像したのだろう。
「あ……っ!?イ、イく、イっちゃうぅ、先生、せんせぇぇ……ッ、せん……っ」
うるせぇ。口に出してそう呟くと、九条は慌てて先程のように自らの唇を手で覆い隠した。
「……ッ、っ、ぁ……っ、ん……ん…っ」
先端から白濁が出始めたのが見え、咄嗟にそれをまた口に含む。
「ん゛ん………――――――ッ!!!」
唸るような嬌声をあげ、九条は絶頂を迎えた。口の中に勢いよく流れ込んでくる精液を一滴残らず飲み干していく。零して服でも汚した場合、困るのは自分だからだ。
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