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赤い刻印

「たまにはベッドもいいねぇ。」

承太郎が狭くないベッド、というとこんなところしか思い浮かばなかった。
私の部屋のベッドは小振りなシングルで承太郎と眠るには狭すぎたし、承太郎の部屋はお布団で、ホリィさんが「ななこちゃんななこちゃん」と可愛がってくれるからつい承太郎をなおざりにしてしまい、大抵不貞寝されてしまう。

「…ななこ。」

「なぁに、承太郎。…あ、もしかして…来るの初めて?」

そう問えば彼は小さく頷いた。こちらを見つめる視線は不安の色を湛えている。「誰と来たんだ」とでも言いたいのだろうか。

「…妬けちゃう?」

私の方が年上だし、承太郎と付き合った時には既に処女じゃあなかったから、そりゃあホテルに来たことくらいはある。
いつも余裕たっぷりで到底年下と思えない承太郎が、私みたいな女に嫉妬するっていうのが少しばかり面白いと思ってしまう私は、案外意地悪なのかもしれない。

「…うるせえよ。」

当たり前だろうが、と小さく呟いて彼は私を抱き締めた。時折見せる年相応な姿が、たまらなく可愛らしい。承太郎に会うまで誰とも付き合わなければ良かったなんて無駄なことを考える日もある。けれど今までの経験がなかったら、多分私と彼は上手くいかなかっただろう。男というものは意外に繊細で嫉妬深く、プライドの塊みたいな顔をして子供みたいに甘えるのだから。

「…シャワー、浴びてきたいな。」

私を抱き締める承太郎の頬に口付けてそう言う。まだ日が落ちたばかりで、時間はたっぷりある。そして、することは一つしかない。
それを承太郎もわかっているようで、彼は何も言わずに腕を緩めた。

「…行ってくるね。」

笑いかけると恥ずかしいのか彼はふい、とそっぽを向いた。
承太郎の大きな身体がベッドに沈み込むのを背中越しに感じながら、浴室のドアを閉めた。

*****

「…承太郎?」

ほかほかと湯気を立ち昇らせながら部屋に戻ると、彼は大きなベッドを満喫するかのように大の字に寝転がっていた。

「あぁ、寝ちゃあいねえぜ。」

承太郎がごろごろと転がってもまだ余裕のあるキングサイズのベッド。飛び込むように身体を沈めれば、すぐに大きな身体が伸し掛かってきた。

「…承太郎は、シャワー浴びないの?」

私は承太郎の匂いが好きだからこのままだって全然構わないのだけど、彼は思春期のせいか元来潔癖気味なのか、きちんと入浴を済ませたがる。今回も伸し掛かったわけではなく、単に私が邪魔だったらしい。

「…行ってくる。」

そっと口付けを落とすと、彼は私を乗り越えて浴室に向かう。後姿さえカッコいいとか凄いなぁなんて考えながら、彼を見送った。

風呂上がりの身体でベッドに転がっていると、不思議と睡魔がやってくる。
暖かい布団に微睡んでいると、ドアの開く音がした。承太郎が戻ってきたらしいけれど、気持ち良い睡魔に侵された身体は動こうとしない。

「…眠いのか?」

大きな手が髪を撫でる。このまま寝てしまったら、優しい彼は私を起こさずにいてくれるだろう。けれどそれじゃあ、ここまで来た意味がない。

「…少し。…でもさぁ、寝ないよ。」

寝るための場所じゃあないもんね、と笑えば、彼は反応に困っていつものように「やれやれだぜ」と呟いた。顔を隠す学帽がないから、その頬が赤いのがよくわかる。

「…ねぇ承太郎。電気、消す?」

「…いや、」

このままで、と言いながら彼は私に伸し掛かってキスをした。明るいところでするのは恥ずかしいけれど、承太郎の身体を見るのは好きだ。私の知らない傷が沢山ある、筋肉質の身体。

「…承太郎。」

「…なんだよ。」

彼が身に纏ったバスローブの紐を引けば、合わせの部分が重力に負けてばさりとはだけた。
下着はつけていなかったらしい。まぁ履くだけ野暮ってものかもしれないけど。

「…脱いで。」

肩の部分を引っ張ると、彼は片腕をバスローブから抜いた。反対側の手に布と化したそれを落とせば、美しい裸体だけが残った。

「…てめえもだ、ななこ。」

承太郎は、私がしたのと同じように結んだ紐を引く。そうして子供がプレゼントを開けるときみたいな期待のこもった顔で、身体に纏う布を剥ぎ取る。私も下着をつけていなかったから、一枚めくるだけで素肌が外気に晒された。

「脱がす楽しみはないね。」

「…悪くねえさ。」

首筋に唇を落とされる。ジリジリとした痛みで痕を付けられているとわかる。逃げ出したくても逃げられなくて、声を上げた。

「…ん、承太郎…ッ、見えるとこにつけたらダメっ…」

「…見えるからいいんだろ。」

満足そうに笑うと、赤くなっているであろう部分をべろりと舐められた。今日は声を抑える必要なんてないと思うと、くすぐったさよりも快感が先に立ってしまう。

「や、あっ、…」

彼の手が、明確な意図を持って肌の上を這い回る。普段よりも荒々しく性急な愛撫に、私の身体は簡単に反応した。

「初めてじゃあねえんだろ。」

「んッ…なにがっ…あ…ッ」

胸の頂を摘み上げながら、承太郎が問う。
下手な答えを返したら千切られてしまうんじゃないかと思えるくらいの視線に、背筋がぞくりと粟立った。

「…誰と来て、何をしたんだよ。」

「…ッ、まえの…彼氏と…っん、来た…」

初めて、の前に入るのが「ラブホテルという場所に来たのが」だと理解する。
素直に答えると、ぎり、と爪を立てられた。反対側の乳首は承太郎の唇に柔く食まれる。濡れた舌で転がされて、痛みと快楽がごちゃ混ぜになっていく。

「それで、『何を』したのか言ってみろよ。」

ヤキモチなのかプレイなのか、よくわからない。けれど私は、問い詰める承太郎の視線にも与えられる痛みにも、間違いなく感じてしまっている。

「…セックス…した、…ぁっ、やあっ!」

ぐちゅ、と承太郎の指が私に割り入ってくる。胸しか触られていないはずなのにそこははしたない音を立てて容易に侵入を許した。

「…そいつ相手でも、触る前から濡れたのか?」

「やっ、じょーたろ、うぁッ…やだぁ…」

花芯を擦られて身体がびくびくと跳ねた。無理矢理に追い詰められていくような感覚に、思わずぎゅっと脚を閉じる。

「…隠すなよ、全部見せやがれ。」

承太郎は胸に触れていた手を離して身体を起こすと、私の脚を割り開いた。
明るい部屋で全てを彼の眼前に晒していると思うと、私の全部を暴かれてしまうような感覚に気が狂いそうになる。

「っう、あっ、ダメっ!やっ、見ないでぇっ!」

「こんなに物欲しげにひくつかせながら何言ってやがる。」

承太郎は私の秘部に顔を寄せると、躊躇いもなく舌を這わせた。ぬるりとした感触が何度も花芯を撫でる。

「や、っあッ、い、やぁ、あぁっ!!」

びくびくと身体を震わせながらあっさりと達した。承太郎は唇を離すと満足げに口元を拭い、「今日は随分だな。」と笑う。

「…っう、…はぁっ…いじわる…」

「その意地悪が好きなんじゃあねえのか。」

ヒクつくそこに指が挿し入れられる。容赦なく私を追い立てる動きに、悲鳴染みた声を上げる。

「やぁっ、だめ、じょーたろッ…や、ゆびじゃ、やだぁッ…」

承太郎はまだ何でもないのに、私ばかり気持ち良くさせられたら、朝まで身体がもたない。せめて一緒に気持ち良くなりたくて、縋り付いて承太郎をねだった。

「…そうかよ。」

彼は唇の端を持ち上げると、私から手を離す。そうして離してやったぜと言わんばかりの態度で息を荒げる私を眺めた。

「…いじわる…ッ…」

身体を起こすと、承太郎は興味深げに私の動作を眺めた。とん、と肩を叩きながら「変わって」と囁いて、私の身体から離れた承太郎に覆い被さる。
枕元からコンドームを一つ取って、封を切った。

「…ななこ。」

「…だめ。ちゃんと付けて。」

ぴしゃりと言うと、小さく舌打ちされた。そりゃあ私だってつけない方が気持ち良いけど、これはお互いのためだから仕方ない。
くるくるとゴムを引き下げていささか苦しげな姿になったそれをしっかりと握るようにして、私は承太郎に跨って腰を落とした。

「…ッあ、ぅ、…じょ、たろぉっ…」

ゆっくりと承太郎を飲み込んでいく。とろとろに蕩けているはずの今だってしんどいくらいに大きな彼のモノで私の中が満たされる感覚に、躊躇いもなく声を上げた。

「…悪ィが、手加減できねーぜ…ッ、」

半分くらい入れたところで腰をがっしりと押さえ込まれて一気に奥まで貫かれる。
そのまま承太郎の好きなように突き上げられ、揺さぶられた。

「ッひぁ!…やっ、激しッんっ、あッ!」

これじゃあ騎乗位の意味なんてない、と思ったけれど抗議の言葉なんて出てこない。ただされるままに揺さぶられて嬌声を上げ続けるしかなかった。

「…ななこッ…」

「ぅあ、…あっ、あ、はッ…」

好き、だとか気持ちいい、だとかそういった類の言葉さえ出てこない。いつの間にかはしたなく腰を振って、ただ快楽を追いかけた。



*****

「ッは…ぁ、はぁっ…」

くたりと承太郎の上に身体を投げ出す。
ぎゅうと抱き着くと、ころりと転がされ組み敷かれた。

「…まだバテるには早いんじゃあねえか?」

「…ちょっとッ…休憩…」

承太郎だって達しているわけだし、ゴムは取り替えようよ、と言うと彼は少し不満そうに私に口付けて身体を離した。

「…まだ夜は長いんだからさぁ…休憩させてくれないと私もたないよ…」

ベッドの上で身体を伸ばしていると、承太郎はのそりと起き上がってタバコに火をつけた。

「…それは今夜一晩俺に付き合ってくれるってことでいいのか?」

「…うん、そのつもりだけど。」

私の答えに満足したらしい承太郎は、ふぅ、と煙を吐いてタバコを灰皿に置いた。
彼が置いた吸いかけのタバコを手にとって、ひとくち。
口の中に煙が広がる。承太郎の口付けと同じ味のはずなのに、美味しくないなと思う。
とん、と承太郎に倣って灰を落としたはずなのに、私の手元のタバコは灰皿の縁にざりりとぶつかって火種を失った。

「へたくそ。」

「誰かさんみたいにヘビースモーカーじゃないんだよ。」

くしゃりとタバコを灰皿に押し付ける。慣れないタバコを手にして小さく震えた指先を、承太郎の大きな手が包み込んだ。

「だったら吸うもんじゃあねーぜ。」

「だって吸わなくてもタバコ臭くなっちゃうじゃない。」

身体の中から全部、承太郎の匂いと同じになってしまいたいなんて言ったら、乙女チック過ぎると笑うだろうか。

「マーキング、というやつだぜ。」

だからタバコなんかで匂い付けされたくねえ、と言って彼は私の首筋に吸い付いた。
承太郎の方が余程乙女チックだったなと失笑すると、彼は私がくすぐったくて笑っていると思ったらしく、今度は首筋に噛み付いた。

「そんなに見えるとこに痕付けないでよ。」

くすくすと笑いながら言えば、耳元に吐息を吹き掛けられる。

「見えるとこじゃあなきゃ、マーキングにならねえだろうが。」

「じゃあ、承太郎にも付けてあげようか?」

てっきり拒否されると思ったのに、彼は意外にも嬉しそうに瞳を揺らした。まるで目の前に餌を出された犬みたいに、期待の籠った視線。

「…好きにしな。」

なんて口では言ってるけれど、先程から彼の目は私の唇に釘付けになっている。

存外可愛らしい恋人の期待に応えるべく、彼の首筋に唇を寄せた。


20151206


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm