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ただいまのかわりに

灰を落とすのが下手だ。
火種まで落として、よく笑われていたっけ。

「…承太郎。」

「…よぉ、久しぶりだな。」

学校の屋上でタバコを吸っていると、承太郎が来た。遠慮も何もなく、彼は私の隣に腰を下ろす。

「承太郎はさぁ、なんで吸ってんの?タバコ。」

「…忘れちまったな。」

そう言うと彼は手慣れた様子でタバコを取り出し、火をつけた。

「良かったら使う?」

「…あぁ。」

手元に置いていたコーラの空き缶を差し出す。空き缶を灰皿代わりにするなんて行儀のいいもんじゃあないけど、灰を散らばすより幾分かましだろうと思う。

「相変わらず不良なんだ?」

「テメェに言われたかねーな。」

「…どこ、行ってたの?」

なるべくなんでもないように聞いたつもりだったのだけど、承太郎の返事がないことを見ると、私の声は固かっただろうか。
誤魔化すように灰をトントンと落とす。指先が震えているのが、バレないように。

「……ちょっと、な。」

二ヶ月あまり不在だったことを、その一言で終わりにしてしまうのか。何も教えては貰えないのか。
いなくなる前だって何も言われなかったことを思い出し、自分はその程度の関係なのだと言われたようで悲しい。
気を紛らわそうと口にしたタバコは、火種が落ちてしまっていて。

「…そっか。」

行き場がない。
私の感情も、中途半端に残ったタバコも。

「…もう居なくならねえから、そんな顔すんな。」

大きな手が、ぽんと頭の上に乗る。
私は、どんな顔をしてるっていうんだ。

「…心配、したよ…」

寂しかった。冬の屋上は寒くて、それでももしかしたら承太郎が来るかもしれないって思って、毎日タバコの火を見つめて。

長かった。

長かったんだよ、承太郎。

次に会ったら言ってやろうと思った沢山の言葉は一つも出てこない。
噛み殺した嗚咽だけが、唇を揺らす。

「…泣くなよ…」

学ランに染み付いた煙と、承太郎の匂い。
どれだけ同じ銘柄を吸っても会えなかった温もりに苦しいほどに包まれて、抱き締められている事実を知る。

「…っう、く…」

「もう、どこにも行かねえから…」

涙が次々と溢れて、学ランに染み込んでいく。汚してしまうのは申し訳なくて離れようともがいたけれど、抜け出せるはずもなく。

「…承、太郎…」

嗚咽が抑えきれない。必死で結ぶ唇を割いて、漏れ出る悲鳴。承太郎がいない間、何度も噛み殺したはずなのに。

「…ななこ、」

しがみついていた身体を引き剥がされる。
やっぱりうっとおしいだろうか、けれど顔を見られたくないし離れたくない。
私の想いは虚しく、承太郎の手によって顎を掴まれ上を向かされる。涙で彼の顔がよく見えない。こんな可愛くない姿、見ないでほしい。

「…っ、ご、…め…」

顔を背けようとした瞬間、目の前が暗くなって、息ができなくなる。
唇を塞がれたと気付いたのは、承太郎の舌が私の唇を割って入ってきてから。

「…ッ…ん!?」

目の前に、伏せられた長い睫毛。
少しざらついた舌に絡め取られて、謝罪も制止も告げられない。鼻から抜ける息が恥ずかしくて息を止めたけれど、苦しくて仕方なくて、承太郎の胸を叩いた。

「…ななこ…」

ゆっくりと唇が離れて、私の名前を形作る。
どうして。どうしてキスなんて。

「…な、んで…」

「…したいと、思ったから。」

それ以外に理由が必要か。とやけに真剣な緑の瞳が言うけれど、必要に決まってる。そんな理由が罷り通るなら、私がとっくに承太郎にキスしてるもん。

「…そんなの、やだ…」

心だけ掻き乱されて、それで終わりなのか。
どこかに行っていたことも、口付けることも、承太郎のすることは全部、彼にしかわからないままなんて嫌だ。

「…どう言っていいのかわからねえが…」

言い淀む承太郎の濡れた唇から目が離せない。彼は言葉を探しているのか何度も唇を開きかけては閉じる。

らしくない。

「…女が喜びそうな言葉で言えば…『好き』ってやつなんじゃあねーかと思う。」

「…え、?」

今までの逡巡は言葉を吐き出すことに悩んでいたわけではないとわかる淡々とした調子で、真っ直ぐ私を見ながらそう告げる承太郎。
私が目をぱしぱしと瞬いていると、彼は言葉を続ける。

「ななこを見ると、俺のものにしてえだとか、キスしてえとか思う。」

「…じょ、たろ…」

いろんなことが突然すぎて理解が追いつかない。承太郎の言葉を理解しようと必死で頭を働かせようとするけど、私の心臓の音が邪魔をする。

「それが『好き』だっていうなら、俺はお前が好きだ。」

普段からはあまり想像がつかないほどの饒舌さで、紡ぎ出される情熱的な言葉。
ドキドキと胸が鳴って、顔に血液が集まっていくのがわかる。

「あ、のっ…承太ろ…ぅん…ッ!」

なんの言葉も返せないまま、再び唇を塞がれる。抱き締められた身体も塞がれた唇も、うるさい心臓も、全部が熱い。

「…つべこべ言わずに俺のものになれ。」

唇を離して真っ直ぐ見つめてくるのは、私がずっと待っていた承太郎その人で。

「…もう、どこにも行かないで…」

言いたかった言葉をやっと彼に告げると、彼は当然だというように唇の端を持ち上げた。


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm