「…あれ、承太郎ー?」
「…おう。」
仕事から帰ると、玄関先に承太郎がいた。
遠目からでもわかる学ラン姿に慌てて駆け寄る。
「どしたの?私今日仕事だって言ったよね?」
駆け寄る私を見つめる視線はとても優しかった気がして、足元から彼を見上げる。けれど承太郎は黙って帽子の鍔を下げるから、その瞳を確認することはできなかった。
「…とりあえず、上がる?」
「あぁ。」
連れ立って家に入っていく。承太郎はお邪魔しますなんて言わない代わりに自分の靴をきちんと並べた。不良のくせに育ちはいいらしく、意外ときちんとしている。本人には言えないけれど、こういう小さな仕草がとても可愛いと思う。
「…今、お茶淹れるね。」
「ななこ。」
キッチンに向かおうとしたはずなのに、気付けば逞しい腕に抱き込まれていた。
承太郎の声が、やけに近い。
「…あ、の…どしたの急に…」
「…テメェが言ったんだろうが。」
言った?何を?
ぽかんとして承太郎を見ると、彼は少しばかり困ったように私から視線を逸らした。
「…昨日、電話で。」
「…へ?」
昨日、特に用事もないけど承太郎の声が聞きたくなって承太郎に電話を掛けた。
だから正直、会話の内容なんて適当なものだったと記憶している。確か、毎日仕事で疲れちゃったよーってどうでもいい愚痴を聞いてもらって。
「…忘れたのかよ。テメェ俺に癒せとかなんとか…」
「…あ!」
そうだ、なんか私ばっかり喋ってるのが恥ずかしくなって、冗談のつもりで癒してー!って言ったような気がする。
「…やれやれだぜ。」
承太郎はいつもの台詞を吐くと、約束だからな、と私を抱き上げた。
突然バランスを崩されて思わず承太郎に抱き着くと、彼は楽しげに目を細めた。
普段は帽子で隠されがちな、柔らかく光るエメラルド。抱き上げられた私の所からは遮るものなんてなくて、その優しい瞳がよく見える。
「承太郎のその目、好き」
「…うるせえよ。落とすぞ。」
恥ずかしいのか視線を逸らす様は年相応の仕草なのに、私を抱く腕は大人の男性にも負けない程にしっかりとしていて。
その言葉とは裏腹にそっと降ろされたのは浴室の前。
「…お風呂?」
「どれにする?」
承太郎はポケットから次々と入浴剤を取り出した。まるで手品のようで思わず笑ってしまう。
「…すごい!」
「草津だろ?別府、登別…」
温泉の素に混じって、可愛らしいピンクのバスボム。
「これがいい!」
「…そうかよ。」
少しばかり不満そうな瞳で、私が選んだそのピンクを見つめる。承太郎は温泉好きなのかな。意外に渋い趣味だし、なんかわかるかも。
「…お湯張ってくる!」
昨日掃除しておいて良かったなー、なんて思いながら、蛇口を目一杯捻る。
ドドドド、と勢い良くお湯が出たのを確認してバスボムを放り込む。脱衣所に戻ると、承太郎はもう学ランを脱いで、洗濯機の上に畳んでいた。律儀だなぁ。…じゃなくて。
「…もしかして…一緒に、入る…の?」
「…それ以外に何があるんだよ。」
不思議そうにこちらを見つめる瞳。帽子も外してしまったから、遮るものなんてない視線。
「…狭い…んじゃあないかな…」
「…文句言うんじゃあねーぜ。」
恥ずかしくて俯いた視界に、承太郎の指。私の胸元に近付いた指先が、襟元のボタンに掛かる。
「…自分でッ、できる…!」
「…黙っとけ。」
次々とボタンが外されて、露わになる肌をエメラルドの視線が撫でる。
恥ずかしくて俯くことしかできないうちに、あっさりと脱がされていく服。
「…恥ずかしいんですけど…」
「今更だろうが。」
いや確かに今更ではあるのだけど、でもここは寝室ではなく、ましてや暗くなんてない。
下着にされたところでくるりと背を向け、誤魔化すように笑う。
「…お湯入ったかな!承太郎も脱いだらおいでよ。」
浴室の中に逃げ込んでドアを閉める。
手早く下着を脱いで、身体を流す。外した下着は後で洗濯機に入れればいいかと、浴室の隅に纏めて放り投げた。
「逃げやがったな、ななこ。」
湯船にとぷんと沈んだところで、承太郎がドアを開けた。ギリギリセーフ、と慌てて背中を向ける。
承太郎の裸体とか目の毒だ。
「…一緒には入れないと思うんだけど。」
私一人なら割と余裕で足が伸ばせるけど、承太郎の長い足は折りたたまないと入らなそうだなぁと思う。
「…いいからちと避けろ。」
ざぶん、とお湯が溢れる。承太郎は私を膝の上に抱きかかえるようにして浴槽に沈んだ。
素肌が密着して、恥ずかしい。…っていうか…
「…あの、当たって…ますけど…。」
「…テメェのせいでな。」
お尻の下にある承太郎のモノはしっかりと自己主張をして、私の肌をぐいと押していた。
「…なんで…」
「なんでも何も、この状況で勃たねえ方がおかしいだろ。」
背後から回された腕が、私の胸を揉みしだく。耳の後ろに舌を這わされて思わず声が出た。
「…ひゃ…ッ!」
「…ななこ、」
承太郎の低い声が鼓膜を揺らす。お風呂場に反響する音はなんだかいつもと違う気がして、承太郎であることを確かめるように、身体に回された腕をぎゅっと握った。
「…じょー、たろう…」
まだ入ったばかりだと言うのに彼は私を抱いて湯船から上がる。
蛇口をひねってシャワーを出すと、お風呂マットの上に座る。そうして先程と同じように私を膝の上に乗せて、再び肌の上に指を滑らせていく。
「っは…ぁッ…う、…あっ…」
小さな飛沫が肌を打つ。使い慣れたシャワーの筈なのに、ぞくぞくしてしまうのは承太郎のせいに違いない。
「…っあ、…やだッ…承太郎…」
私が零した嬌声は、シャワーの落ちる音に掻き消されることなく浴室に響く。
「…嘘をつくんじゃあねーぜ。」
こんなに濡れてるくせに、と彼は私の愛液を塗り広げるように何度も指を往復させる。
花芯を指先が擦り上げるたびに、身体がびくびくと跳ねた。
「ぅあ、じょーたろッ…」
「…なんだよ、」
「…キス、して……」
背中から抱き締められているせいで、縋る場所がない。身体を捩って口付けをねだると、彼は私の言いたいことを理解したのかフッと視線だけで笑って、軽々と私の身体を反転させた。そうして、落とされる唇。
「っん…ぅ、…」
首筋に腕を回してぎゅうとしがみつく。
舌で歯列をなぞられて、水滴だか唾液だかわからないものに首筋が濡れていく。
溺れてしまいそうだ、と思う。
「…ななこ…」
口付けの間に名前を呼ばれて、それだけで頭の中が気持ちよく蕩けていくみたい。
承太郎の名前を呼びたいのに、私の唇は意味のない音しか零すことはできなくて。
そうしているうちに、承太郎の指先が私の中に侵入する。
「っん!…んむ、ぅ…んんっ……」
唇を塞がれたまま、ぐちゅぐちゅと中を掻き回される。零すことのできない嬌声は、承太郎の唇に飲み込まれた。
「随分と…気持ちいいみてえだな…」
彼は私を見て満足そうに笑うと、指を抜いて自身を当てがった。数回擦り付けるように動かされて、入ってくるであろう熱に入り口がヒクついてしまう。
「…んッ…じょうたろ…早く…っ…」
ねだるように腰を揺らせば、やれやれだぜ、といつもの台詞。けれど言葉とは裏腹に切羽詰まった熱が、私を一気に貫いた。
「…ああぁッ、…は、んッ…!」
そのまま勢いにまかせてガツガツと揺さぶられる。指とは比べ物にならない質量で擦られて、気持ちよくてどうにかなりそう。
「…ななこっ、ななこッ…」
余裕のない表情で何度も名前を呼ばれて、身体も心もぐちゃぐちゃに掻き回されてるような感覚。目の前が、白く弾けてしまいそうな。
「じょ、たろっ、…やっ、ん、イっ、…も、…ダメっ…」
身体が勝手に承太郎を締め付けているのがわかる。もっと承太郎と繋がってたいのに、身体に溜まる快感はもう弾け飛びそうなくらいいっぱいになっていて。
「…ななこっ、すきだ…」
「…や、っああぁッ!」
その一言が引き金になって、目の前に、星が散った。承太郎は自身を勢い良く引き抜いて、私を折れそうなほどきつく抱き締める。大きな身体がびくびくと震え、粘度の高い飛沫が私の肌を濡らした。
ぐったりと力の抜けた身体には、相変わらずシャワーが降り注ぐ。
「…大丈夫か?」
承太郎は片手でシャワーヘッドを取り、私の身体を綺麗に流してくれた。そうして指先でそっと髪を避けて、額に口付けを一つ。心配そうに揺れる瞳からは、先程の切羽詰まった表情なんて想像がつかない。
「…ん、だいじょーぶ。」
「…なら良かった。」
「…え?」
含みのある言い方をされて、思わず彼を見上げる。承太郎はニヤリと笑って、私を抱き上げた。
「…まだ今日は終わりじゃあねーってこった。」
とんでもなく色っぽい顔でそう言われて、言葉の意味を思い知る。
顔がこんなに熱いのは、お風呂上がりだってだけじゃあないはず。
「…う、…」
返答に窮する私をバスタオルで包みながら、承太郎は楽しげに言った。
「ぐっすり眠れるようにしてやるよ。」
20150930
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bkm