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悪いことでも、君が教えてくれるなら。

授業をサボって、屋上で煙草をふかす不良が、うちの学校にいる。
それでも彼の成績は悪くないのだから、頭の出来不出来というやつはまったくもって理不尽だ。この時の私はまだ知らないけど、彼はいずれ博士号すら取ってしまうらしい。

「…空条、承太郎くん。」

「あ?」

長い睫毛を重そうに持ち上げて、彼は私を見上げる。
私からは学帽に半分隠れてしまっているけど、綺麗な顔だなと思う。みんながキャーキャー言うのもわかる気がする。

「…次の授業で、テスト範囲の連絡だって。…出なくていいの?」

知っていて損はない…というか、あの先生は連絡した範囲からしか出さないのだ。

「…てめえが聞いて教えてくれりゃあ済む話だろ。ななこ。」

腰を上げるつもりはないらしく、彼はまた煙草に唇を付けた。
名前を呼ばれたことに些か驚く。
ただのクラスメイトの私なんて、空条くんは知らないと思ってた。

「…じゃあ、授業終わったらまた来ればいい?」

「ん、頼むぜ。」

あっさり受け入れた私に驚いた様子の空条くんは、煙草を咥えた唇を楽しげに歪めた。

*****

「…本当に来やがった。」

「…え、冗談だったの?」

ノートとペンを片手に屋上に来れば、彼は小さく笑ってそう呟いた。
唇にはまた煙草が挟まっている。どれだけ吸うんだろう、体に悪いんじゃないのかな。

「次の授業はいいのか?」

「あ!」

空条くんにテスト範囲を!とそれしか考えていなかったけど、そういえばまだ授業があった。どうしよう、とオロオロする私を見て、空条くんは笑っている。…笑うんだ、この人。

「サボっちまえよ。…なんかあったら俺が言ってやるから。」

「…あ、りがと。」

初めてのサボりか。となんだかしみじみしてしまう。
空条くんの隣に腰掛けると、煙草の匂いがした。

「なんで俺なんかに構ってんだ?」

「…え?…テスト範囲、知ってたら空条くん一番になるんじゃないかなーと思って。」

あんだけサボってて頭いいからさぁ、気になったんだよね。
そう笑うと、彼は照れたのか帽子を被りなおした。

「いや意味わかんねー…」

「あ、ねえ煙草、いつも吸ってるけど…美味しいの?」

変なやつだと思われたかと、慌てて話題を変える。彼はふうと煙を吐き出して、私に向かって言う。

「…吸ってみるか?」

「いいの?」

思わず興味が先に立つ。空条くんが許可を出したら許されるんじゃないかなんて思えるほど、彼にはカリスマ性がある。

「…座れ。」

「そこに!?」

空条くんは自分の足の間を指差す。
いやそこに座ったら後ろから抱き締められるっていうか二人羽織!!

「早くしろよ。」

「う…はぁい…」

強く命じられ、断りきれずそっと腰を下ろす。空条くんは二人羽織よろしく、私の口許に吸いかけのタバコを差し出した。彼は大きいから、上から私の口元が見えるのだろう。

「ゆっくり吸わねえと咽せるから。」

少しばかり湿ったタバコの先は、空条くんの唾液なのか。間接キスというには生々しすぎる感触に頬が熱くなる。彼はそんなこと気にしないのかな。

「…ん。」

おそるおそる息を吸うと、苦い煙が口内を満たす。

「もっと、肺にまで吸ってみな。」

言われるまま、煙を飲み込む。
喉がジリジリと焼けついて、思わず咽せた。
鼻に抜ける煙が苦くて苦しい。

「っげほッ、…う…」

「…大丈夫か?」

空条くんは心配そうに頭を撫でてくれる。
大きな手が温かくてなんだか安心してしまう。

「…だいじょーぶ、…けどおいしくない…喉痛い…」

涙目でそう言うと、彼は私が一口吸ったタバコを再び自分の唇に戻した。

「やれやれだぜ。」

そう呟くと、煙を吐き出す。
空条くんが吐いた煙が目に染みて、更に涙が溢れた。

「…空条くんの不良。」

恥ずかしさを誤魔化すように言えば、「てめーが吸ったんだろうが」と、頭を小突かれた。


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm