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爪に灯す下心


ミスタは良く手元を見ている。
私はそれを銃の手入れだと思っていたのだけれど、今日は近くを通りかかってもピストルズの声が聞こえなかった。
珍しいこともあるもんだ、と通り過ぎざまにちらりと手元に目をやればそこには銃ではない小さな銀色があり、ぱち、ぱちと不規則に音を立てていた。

「……爪切り、?」

ぱちり、とまるで返事をするみたいにまた小さな音が鳴り、ミスタが顔を上げる。

「……ん?」

「……いや、てっきり銃でも磨いてるのかと思ったから……爪切ってるの……なんだか意外で、」

小さな呟きが届いてしまったことに若干の居心地の悪さを感じながらもそう告げれば、ミスタは私よりももっと居心地悪そうな顔をして、視線を彷徨わせた。

「別にいいだろ、」

ぶっきらぼうにそう返されて、ちょっぴり戸惑う。何か気にさわることを言ってしまっただろうかと考えて、ふとトリッシュちゃんのことを思い出した。

「あ、もしかしてトリッシュちゃんに言われたこと気にしてるの?」

彼女は以前、ミスタの爪の形がヘンだ、って言ったって話を聞いた。その時トリッシュちゃんは男の人ってみんなあんななのかしら? って言っていたけど、私はそんな男性の爪の形なんて気にしたことがなかったから(気になるのはどっちかと言うと女の子の煌びやかなネイルとかだし)、よくわかんないな、って曖昧に笑って終わったんだっけ。

「……はァ? なんでななこが知ってんだよ」

不機嫌そうなミスタに、前にネイルの話しててそんなことを聞いたの、と返せば、彼は不満そうに唇を尖らせながら「ふぅん」なんて返事をした。

「……ミスタの爪なんて、あんま気にしたことなかったなァ」

恋人なのにね、と付け加えると彼は僅かばかり不安げに「……あんま見んなよ」と呟く。
それがなんだか、置いていかれた子供みたいな響きを含んでる気がして、私はミスタの手を取った。

「……私は好きだよ、ミスタの手」

無骨な指先が引き金を引くところは格好いいし、ピストルズたちに食べ物を摘み上げるのはとてもセクシーだなって思う。
持ち上げた指先に視線を落とせば、切り揃えられた爪は白いところがほとんどないくらいになっていた。

「……ねぇコレ、深爪なんじゃない?」

切りすぎなんじゃあないかしら、痛くないのかな、なんて思いながらミスタを見れば、その頬を赤らめて「……誰のせいだよ」と告げられた。

「……?」

私が不思議そうな顔をすると、ミスタは小さな舌打ちをひとつして、「ばーか」といった。なんだバカって。ひどい言い掛かりだ。

「バカってどう言うことよ」

ムッとした顔で返せば、彼はぷいと顔を背けて、また爪を切り始めた。

「ちょっと、なんで無視すんの」

揺すってやろうかと思ったけれど、爪切りとはいえ刃物だからやめておく。ねぇ、とミスタの視界を遮るみたいに覗き込めば、彼は短く切り揃えた爪で私の鼻を摘み上げた。

「いひゃい!」

「……痛くねーだろ。お前のために切ったんだから」

私のため、と言われても意味がわからずキョトンとしていると、ミスタは何やら含みのある笑みを零し、私の肩を抱き寄せた。
さっきまで赤くなっていたのに急にどうしたんだ、と戸惑う私の耳元に言葉が落ちる。

「わかんねーなら、今夜たっぷり教えてやるよ」

「ーーーッ、ばか!!!」

その言葉に今度は私が赤くなる番だ。
逃れようともがく私を押さえ込んで、ミスタは笑う。

「なんなら、今からだっていいぜ?」

20190910


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm