「チャオ」
道端で突然声を掛けられて辺りを見回す。歩道には人はなく、なんだ空耳か、と再び歩き出そうとすると、「オイ無視かよ!」と怒鳴られた。
「……え? ミスタ?」
声の出どころは車道に止めた一台の車だった。ハンドルを握る彼は、見慣れた帽子の男。
「……運転なんてできたんだね」
ぽかんとしながらそう零すと、「お前なァ、」なんて呆れた声。
「そりゃあパッショーネのNO.3なら当然だろ」
乗れよ、と促されて助手席のドアを開ける。なんだかとても高級そうな車だ。ギャングってのはお金持ちなんだな、なんてぼんやりと彼を見る。
「…何呆けてんだよ、行くぜ」
そう告げるとミスタは勢い良くアクセルを踏んだ。ちょっと運転が荒いんじゃない!?なんて思ったけど、なんだか映画のワンシーンみたいで素敵だから黙っておいた(ミスタが映画に出られるほど美形かはまぁ別として)。
「急にどうしたの?」
「あ? ドライブだよドライブ。ちっと付き合え」
別にいいけど、なんてそっけない答えを唇に乗せたけれど、真剣な顔で運転するミスタは正直カッコいい。車のせいで五割増しになってると言われたら、その通りかもしれないけど。
「どこに行くの?」
「そりゃあ海に決まってんだろ!」
ゴキゲンなミスタは尚もアクセルを踏む。これは捕まるレベルじゃあないかしら、と思ったけれど、見慣れたはずの景色が勢い良く流れていくのがとても爽快だった。
「海だー!!」
「おう、はしゃげはしゃげ!」
見慣れた景色がなくなってしばらくすると、海が見えてきた。ミスタが窓を全開にすると、冷たい風と共に海の匂いが流れ込んでくる。ちょっぴり寒いけど、テンションの方が勝った。
「ねぇなんで急にドライブなんて、」
「……なんだよ、思い当たることねーの?」
ミスタは悪戯っぽく笑うと、スピードを落として駐車場に入った。海水浴客向けの駐車場をこの季節に使う物好きは私たちくらいしかいないらしい。手慣れた様子でハンドルを切るミスタはひどく格好いい。男の人がバックで駐車する姿に惚れる、なんて良く聞くけど、これは本当かも。なんて。
「……別にないなぁ、こんな季節に海に来る予定なんて」
「……オレはあんだよ」
ミスタはそう言うと車を降りてこちら側に回り込み、ドアを開けた。それから私に手を差し伸べて「お手をどうぞ、シニョリーナ」なんて気障ったらしく笑う。
「……ありがと、ミスタ」
ミスタの手を掴んで車を降りて、それから離そうと思ったのに、彼は私の手をきつく捕まえたまま。
「……ミスタ?」
「お前、なんでこんなトコ来たのかほんとーにわかんねーの?」
「……?」
私が不思議そうに首を傾げると、彼は「相変わらず察しが悪ィな」と楽しげに笑って私の手に小さな包みを握らせた。
「……誕生日だろ。やるよ」
少しばかり照れ臭そうに言う姿に、心臓が大きく跳ねた。それがなんだか悔しくって、私は語気を強める。
「……なにそれ。まずは「おめでとう」じゃないの?」
「うるせーよ、ガラじゃあねーコトしてんだから、ちっとは察しろ」
でもまぁなんだ、その…、なんて、十分に戸惑ったのちに、やっと「おめでとう」の言葉が零される。
「……ありがと。ミスタ、大好き」
「……ッッ!?」
私の言葉に彼は目を白黒させて、「どういう風の吹き回しだよ!」と喚いた。
「ミスタがガラにもなく頑張ってくれてるから、私も、って思って」
熱い頬を隠したくて俯きながら言えば、彼は勢い良く私を抱き締め、もう一度「誕生日おめでとう」と囁いた。
20171117 たださん、お誕生日おめでとうございます!!!
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bkm