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秘すれば花なんて嘘

年齢差っていうのは、まったく厄介なものだと思う。
うまく言えないけど、世の中の『当たり前』みたいなものがいつの間にか心に染み付いてしまっている、みたいな。
年上だからしっかりしなきゃ、と、いつも思ってしまって、素直になれないっていうか、なんていうか。
そもそも私の恋人が、カッコ良すぎるのがいけないと思う。改造学ランにリーゼントで、いかにも不良って感じなだけで人目を惹く。その上、長身の美形でスタイルだって抜群だ。なんで私なんかと、って、一緒に歩くたびに思う。この美しい背の隣には、もっとこう、若々しいセーラー服が並んだ方が綺麗なんじゃあないのかな、と。

「……なんでそんな後ろに行っちゃうんスか」

「え? なにが?」

仗助くんの後頭部をぼんやり眺めながら考え事をしていたら、不意に振り向いてそう言われた。ぽかんとする私が足を止めると、仗助くんも私と同じようにその場に立ち止まる。私たちの間の距離は、1メートルくらい。

「……なんかいっつも、俺の後ろにいません?」

「……えー……仗助くんの背中が格好いい、から?」

へらりと笑って返すと、仗助くんは困った顔で笑って、小さく溜息を吐いた。

「……なぁななこさん? アンタ俺の恋人っスよね?」

「え? あぁ、うん、そう……だね」

何度聞いても強く頷けない。今だって、曖昧に首を傾げてしまう。こんな格好いい仗助くんが、どうして私なんか、って。
意外に策士というか、イタズラ好きな面も知っているから、もしかして突然「冗談スよ、」と笑われてしまうんじゃあないか、って。(それは彼にとても失礼だってことは、良くわかってるんだけど)

「……恋人なら、もっと近くて良くないスか?」

「……でも、仗助くんの背中……見るの好きだし」

それは本当だ。彼の背を、羨望と恋情の眼差しで眺める度に胸の奥底がきゅうと鳴る。好きだよ、なんて恐ろしくて言えないけど、私は、この東方仗助という青年に、心底惚れている。……嫌われたくなくて、近付けないくらいに。

「……ななこさんさぁー、まだ俺に『もっと相応しい子が』とか言うつもり?」

凛々しい眉を寄せるのも格好いいなぁと思う。仗助くんの好きを疑うのは失礼だってわかってるけど、無条件に受け入れられるほど私は若くない。

「……そんなこと言わないよ……」

以前めちゃくちゃ怒られてから言うのをやめたけど、いくら諭されても、もっと相応しい子が、って気持ちは拭いきれない。それはきっと、私が『年上』ってことにコンプレックスを抱いてるせいだと思う。

「アンタ嘘つくときいつも髪触んの知ってる?」

「……え、」

無意識に髪に触れていた手を慌てて下ろすと、仗助くんは呆れた顔で笑った。「何がそんなに不安なんスか」と、優しく宥めるような声が鼓膜を揺らす。

「だって……仗助くんはカッコいいから……」

「そう言ってもらえんのは嬉しーんスけど。……ったく……アンタはほんとにしょーがねーなぁ」

仗助くんはそう言って、その大きな手を私に差し出した。普段だったらなんだか悔しかったり照れ臭かったりで「私の方が年上なのに」とか「子供扱いしないで」とか、そういう言葉を返してしまうのだけれど、彼の笑顔があんまり綺麗で、思わず差し出された手を取った。

「……ッ、」

仗助くんは大きな眼をぱっと見開いて、それから頬を赤くした。くるくる変わる表情が面白くて笑みを零せば、彼は普段通りの年相応の顔で視線を逸らした。

「……どうしたの」

「いや、だって……チョーシ狂うっスよこんなん……」

「……それは……こっちのセリフなんだけど」

照れられるとなんだかこっちまで恥ずかしくなる。付き合いたてのカップルじゃああるまいし、二人手を繋いで照れてるなんてカッコ悪い。そう思ってみたところで、この赤い頬とうるさい心臓は騙せそうもなかった。

「……おれ、ホントにアンタが……、っつーか……ななこさんじゃなきゃあ嫌なんスよ」

ぎゅう、と力のこもる手はあったかくて優しい。私だって、仗助くんじゃなきゃあダメだ。けど言ってしまったらもう戻れなくなる気がして何も言えない。だって、泣いて縋る重い女を、彼が愛し続けてくれる保証はないから。

「……なんで、」

「なんでも何も、好きになっちまったんスもん……」

だから、俺のワガママ聞いて隣にいてください。なんて、仗助くんの方がずっと大人だ。
こんな、聞いてるだけで心臓が破裂しそうな言葉を、声に出す勇気があるんだもん。

「……ワガママなんかじゃない、よ……」

むしろ我儘なのは私の方だと思う。仗助くんの優しさに甘えっぱなしで、不安がるのに素直にもなれない。彼に対して失礼なことを、たくさんたくさん思ってしまう。

「……ごめんね」

「は? なんで謝るんスか?」

「…………なんとなく……」

胸を張って「好きだよ」と、言える日が来るんだろうか。息を吸ってみたけど、胸が苦しくなっただけで何も言えなかった。都合のいい時だけ『年上』を持ち出すくせに、こんな時にちゃんと言えない自分が恨めしい。

少しでも私の好きが伝わったらいいのにと繋いだ手に力を込めてみたけど、きっと伝わらないのだろう。

20181021


萌えたらぜひ拍手を!


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