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桜と空と

「仗助くん! こっち!」
俺の少し先を歩いていたななこさんが、くるりと振り向いた。満開の桜並木の下、春風に髪とスカートをはためかせる彼女は、惚れた欲目なんてものを差し引いたって充分可愛い。
「……あんま先行ってはぐれねーでくださいよ」
本音を言えば手を繋いで歩きたいんだけど、そんな勇気も度胸もない、こー見えて純愛タイプの仗助くんは、チコッとばかし不機嫌な顔でそう言うくらいしかできねーんスよ。かっこ悪いことに。
ななこさんは俺の気持ちなんてつゆ知らず、まるで風に散る桜の花びらみたいに、あっちこっちフラフラしては、綺麗だのなんだの歓声を上げている。喜んでもらえるのは嬉しいけど、さっきから全然構ってもらえないもんで、俺よりも桜がいーのかよ、なんて気持ちも生まれちまう。
「……ねぇ、満開だよ!」
「だから来たんスよ」
桜は満開、空は晴天。絶好のお花見日和だ。しかも俺たちが歩いてるのはいわゆるお花見スポットってやつじゃあないから、そんなにゴミゴミしていない。今だって、周りに人はいるものの、桜の樹の下にはななこさんだけだ。
「さすがだよね、こんな素敵なところ知ってるなんて!」
ニコニコと笑う彼女は、この街にあまり詳しくない。SPW財団の、と挨拶されたのは、確か桜の葉が落ちる頃だった。その時に芽吹いた俺の恋心は、この桜とともにまさに満開なわけで。ここで決めるぜ、なんて意気込んで誘ったくせに、いざ目の前にななこさんが来ると、なんも言えなくなっちまう。
「……まー、そりゃずっとこの街にいますからねぇ」
でもこの場所は、なんていうか、特別だ。小さい時から好きな人を連れて来たいって思ってた場所で、今まさにそれが叶ってる。
だからあとは、一言彼女に伝えるだけ。
「ねぇ仗助くん、桜と青空って、君に似てる」
「……へ?」
思わず間抜けな声を出す。黒髪に学ランの俺には、ピンクも空色も備わっちゃいないから。
思わず視線を下ろして己の姿を見たけれど、そこにはやっぱり暗色ばかりでななこさんの言葉の意味はわからない。
「……そっちじゃなくて、」
ななこさんはそう言って、俺の背後を指差した。振り向いた先には、クレイジーダイヤモンド。ピンクと、空色。
「……アンタ、見えてたんスか」
「……言ってなかったっけ?」
「いや全然聞いてないっス」
驚く俺にいたずらっ子みたいな視線を向けながら(厳密に言うとその視線はクレイジーダイヤモンドに向けられてたけど)、ななこさんは、「咲き始めてからずっと、似てるなって思ってた」と笑った。
「……それって、俺のこと考えてくれてたっつーコトっス、か?」
これは期待してもいいんだろうか、なんて、風に揺れる桜よりも心が騒めき立つ。
これってチャンスだろ東方仗助、と拳を握ってみたけど、うまく言葉が出てこない。
「そうだよ」
ななこさんの返答で、また心臓が高鳴った。いつもの調子を崩さない彼女には他意なんてないのかもしれないけれど、この状況で期待すんなって方が無理な話で。
「……それ、期待しちまうんスけど」
ようやっと出てきた言葉は、なんとも女々しい。もっとはっきり、好きだって言うつもりだったはずなのに。
ななこさんは俺の気持ちを知ってからかっているのか、それとも聴こえてないのか、もしかして暗に断っているのか、なんにも答えずに満開の桜を見上げた。
「やっぱり、仗助くんに似てる」
投げ掛けられた言葉をどう受け取っていいのかわからない俺は、やっぱりハッキリ言うべきだろうかと拳を固め、ななこさんの元に駆け寄った。



20180401


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm