岸辺露伴という男は、とても残念な生き物である。
まずファッションセンスが少々尖りすぎている。彼を初めて見た人間は、その額に釘付けになるだろう。その美形が霞むほどのバンダナの破壊力ったらない。
「……それ、外さないんですか」
「はァ? なんだよ藪から棒に」
それってどれだ、と目を丸くする露伴先生を見て、私は早々に諦めた。このトレードマークがなくなったからといって、マトモな格好になるかと言えばそんなことは全然ない。
上下白の服にヘソが出ている時点で、なんていうかもう、ダメだ。うん。
「……なんでもないです」
「なんだよななこ、言わなきゃあわからないだろう」
不機嫌さを隠すこともしない瞳が私を覗き込む。あぁ綺麗な顔だなと改めて思う。そのきめ細やかな肌に小さく溜息をつけば、何を勘違いしたのか彼は至極不機嫌に私の頬を摘み上げた。
「……痛たたた、なにするんですか!」
「一丁前にぼくに不満があるらしいからな、腹が立った」
「……大人げなさすぎませんかそれ、」
痛いからやめて、とその手を掴めば、先生は勢いよく手を離し、「ぼくがガキだって!? 君に言われたくはないね!」と憤慨した。この独りよがりなところも残念だよな、と思ったらなんだか笑えてしまう。笑みを浮かべたら、摘まれた頬が痛い。
「……せんせーバンダナ外したら格好いいのになぁ、って、思っただけです」
ガキだなんて思ってません、と続ければ、先生は「なに馬鹿なこと言ってるんだよ」と大袈裟に溜息を吐いた。目が泳いでいるから、きっと照れ臭いんだろうと思う。……天邪鬼なところも、残念だ。
「……それで、なんだって急にそんなこと。欲しいものでもあるのかよ」
「……ないですけど。そんな下心で褒めてると思われるのは心外です」
そんな子だと思ってるんですか? と今度は私が頬を膨らます。先生は顔を背けた私に面喰らった様子で、ぱちくりと瞬きをした。
「……別に褒めたりしなくたって欲しいものがあるなら買ってやるって言ってるんだ」
まずいことを言っただろうかとちょっぴり不安そうにするのがとても可愛い。この人は、自信過剰に見えるくせに意外と繊細だと、最近気付いた。
「甘やかされてますね、わたし」
「……今頃気付いたのかよ」
ぷいと顔を背ける先生は、居心地悪そうにガシガシと頭を掻いた。それから少し間を置いて、「当然だろう、」と続く。それからまた少ししてごにょごにょと小さく零す呟きは、恋人なんだから、と聞こえた。
「……せんせ! じゃあ、『好き』って言ってください」
「はァ!? 馬鹿じゃあないのか君は」
「バカって言ってなんて頼んでません!」
恋人だと言うなら、それくらい言ってくれてもいいのに、先生はぎゃんぎゃんがなり立てるばかりで一向に言ってくれない。
「ねぇせんせー!」
「うるさいなぁ君は!」
うるさいのは先生の方でしょう、と返そうとしたら、不意に肩を引かれてそのまま口付けられた。視界を埋める緑色のインパクトと柔らかな感触に驚いていると、一瞬で離れた唇が「これでわかったかよ」と告げる。
「……わかりました……けど、不意打ちでキスする方が恥ずかしくないんですか……」
「……本当にうるさいなぁ君は!」
恥ずかしいに決まってるだろう!? なんて真っ赤な顔で吐き捨てる先生に思わず吹き出すと、「なに笑ってるんだよ」と怒られた。
岸辺露伴って人は、本当に残念で、可愛くて、大好きだ。……言ったら多分怒られるから、言わないけど。
20180531 凪さんへ!
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bkm