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きっと熱伝導

「知らない誰かの言葉に救われるってことも往々にしてあるんだよ」
「……なんですか急に」
怪訝そうな視線を向けた私を気にすることもなく、露伴先生は続ける。
「君は本や映画で泣いたこともないのか?」
「いやまだも何も先生の言ってる意味がわかりませんけど」
私がそう言うと、先生は盛大に溜息を吐いた。
でも確かに言われてみれば、本も映画も、なんなら世の中に溢れる沢山の言葉のほとんどが「知らない誰か」のものだよなぁ、なんて思う。
「それで先生、いったい何の話なんですか」
「……いや、別に? ふと思っただけだ」
相変わらず露伴先生はわけがわからない。と溜息を吐いたところで、そういえばこの人も言葉を生み出している側の人間だったなと思う。
「……先生も、誰かを救ってるかもしれませんね」
「それを言うなら、君だってそうだろ」
「私?」
私は別に、漫画家でも小説家でもない。ごくごく普通の高校生に、いったい何ができるというのか。
「……別に、誰も救った覚えは……」
そこまで言って、ふと、目の前のこの男に意地悪をしてみたくなった。
「ねえ先生、それって私が最初に書いたファンレターのこと言ってます?」
そういえば、そもそものキッカケはファンレターだったよな、なんて思ってそう言えば、先生は不敵に笑って私の額を小突いた。
「……なんだよ、わかってるじゃあないか」
てっきりからかわれるか誤魔化されるかすると思ったから、反応に困る……っていうか照れる。
「……でっ、でも先生、『知らない誰か』って!」
慌ててそう返せば、先生はふっと笑った(普段そんな顔しないからびっくりしたっていうかドッキリした)。
「あの時はまだ『知らない誰か』だったさ。……ぼくが、あの手紙で君に興味を持ったってだけで」
「……ッ、」
言われてみればまったくその通りで、ある日突然変な男に「君か!」と大声を出され、あれよあれよと言う間に喫茶店に連れ込まれた。それがまさか私が大好きな物語を生み出す人だとは思わず半泣きになる私を見て、あろうなことかこの男は「そんなにぼくが好きなのか!」とのたまったのだ。
まったくもって酷い話だ。と私が溜息をつけば、目の前のバンダナ男はニヤニヤと下卑た笑みを零しながら「でも事実だろう?」なんて。
「……さぁ、どうでしょうかね」
悔しいので溜息と共にそう返せば、彼は不満そうな瞳で指先を私に向ける。
「シラを切るつもりなら、読んでやったっていいんだぜ?」
「悪趣味。……脅すつもりですか」
「別に?」
ホント厄介だ。「スタンド」とかいう能力のせいで(私には見えないけど、この岸辺露伴という男なら何ができたっておかしくない)、この人には何一つ敵わない。
まぁ言ったところでリアリティがどうとかで使いっこないのだけれど、臍を曲げるとめんどくさいのがこの岸辺露伴だ。
「……ねぇセンセ、言わなくたってわかるでしょう?」
大好きな指先を捕まえて、胸元に押し当てた。心臓はいつだって勝手に動くから、こうして速くなるのだってわざとじゃあない。
「……君ってやつは、」
先生は喉に何か詰まったみたいな声を出しながら手を振り払い、それから勢い良く私を抱き締める。
「……なんですか急に」
小さな溜息は、目の前の薄い布に吸い込まれた。くぐもった言葉を聞いた先生は、私の頭をぎゅうと胸に押し付ける。布一枚向こうには、私と同じように騒ぐ心臓。
「……別に」
強がるみたいに吐き捨てられた言葉が、身体を通して振動で伝わる。わかったか、とでも言われているような気がして、私は両腕をその細い腰に回した。

20180915


萌えたらぜひ拍手を!


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