最近変な夢を見る。それは花京院くんや空条くんに言わせればスタンドのせいかもしれなくて、でも私には思い当たる節なんてない。
「…ふぁ…」
大きな欠伸をすると、花京院くんが「大丈夫?寝不足?」なんて声をかけてくれた。
「うん、良く変な夢を見るせいかなぁ…」
見事なストーリー仕立てのそれは、壮大すぎて続きが楽しみになるくらいだ。花京院くんや空条くんが心配するからあまり言えないけれど。
「…どうせなら、この間みたいな夢を見てくれたらいいのに」
「この間…?」
花京院くんの期待に満ちた視線で、彼に触れた時のことだと知る。思い出したら恥ずかしくなって、慌てて顔を逸らした。
「…ななこに付けられた傷、消えちゃったんだよね」
別に治らなくていいのにさ、なんて笑う花京院くんは、どこか寂しそうに見えた。
「もし私がスタンド使いだったらさぁ、『見たい』って思ったら見られるのかなぁ、」
「…試してみてよ。」
僕とエッチしたい、って思えばいいんじゃない?なんて笑顔で言われたから、花京院くんのバカ、と返した。そんな涼しい顔で一体何を考えているのかこの人は。
「なに考えて、って普通のことだよ。」
「普通の人は友達に彼女を抱かせたりしません!」
ぷい、と顔を背ければ、アレは仕方ないだろ!?と騒がれた。僕が触れるなら承太郎に頼んだりしなかったよ、とも。
生きて帰ってくれば良かったのに、って言葉を必死で飲み込んだ。そんなこと言ったら、悲しくなるのは花京院くんだ。
「…ななこ?」
私が泣きそうな顔で黙り込んだのをみて、花京院くんは困ったように私を覗き込む。ごめん、なんて言葉を紡ぐ唇に触れられるなら、今すぐ塞いであげるのに。
「花京院くん。一緒に寝よう。」
「え?」
今?学校は?ときょとんとする彼をよそに、私は布団に潜り込む。お父さんもお母さんも仕事に行ったし、学校なんて一日くらい行かなくっても大丈夫だ。
「…花京院くんが言ったんだからね!?」
「ねぇそれ、ななこも僕としたいって…思ってるってこと?」
ぱちくりと目を瞬かせ、花京院くんが言う。どうしてこうデリカシーってもんがないんだろうか。私は「変な夢見て眠いだけ!」と頭から布団を被った。
「…素直じゃないなぁ」
嬉しそうな声がして、花京院くんが布団に潜り込んできた。と言っても彼はゆうれいだから、私の布団が捲られるようなことはなかったけど。
「たまには明るいうちから眠るなんて贅沢したかったの!」
「僕のおかげだね」
「花京院くんはエッチなだけでしょ!」
くすくすと笑いながら、私たちは瞳を閉じた。
*****
「…ななこ、起きて」
耳元がくすぐったくて瞼を持ち上げたら、花京院くんの首筋が目に飛び込んでくる。花京院くん、と声をかけると、ぎゅうと抱きしめられた。
「夢の中で起こされるなんて変なの」
「…ななこの思い通りになるのかなぁ、やっぱりスタンド?」
キラキラした瞳の(もしかしたらギラギラ、の方が正しいかもしれない)花京院くんは、私を確かめるように両手で頬を挟み、「ねぇ、本当に僕とエッチしたいって思ったのかい?」なんて笑う。恥ずかしくて顔を背けようと思ったけれど、出来なかったから瞳を閉じた。それを合図にしたみたいに、花京院くんの唇が重なる。
「…ななこ、」
「…ん、っ…がっつきすぎじゃあない…?」
「血気盛んな男子高校生捕まえて、ガッつきすぎだなんて当たり前のこと言われても」
別に捕まえてないけど、と笑えば「僕の心は捕まってるんだよ」なんて気障な台詞と共にもう一度口付けられた。その手は忙しなく私の服のボタンを外そうとしている。
「…ちょっと待ってよ、花京院くん」
「残念だけど、待てないよ」
ギラついた視線を向けられたけれど、慌てているのかそのボタンは上手く外せていない。思わず失笑を零して、花京院くんの頬を両手で捕まえた。
「…ッ私が外した方が、早いと思うの」
「…ななこ、」
ちゅ、と一瞬だけ唇を押し付けると、花京院くんは驚いた顔で私を見た。あぁ、なんで私はこんな恥ずかしいことを。
でも放っておいたら引きちぎられそうだったから、なんて誰にともなく心の中で言い訳を零し、私は自分の服のボタンに手を掛ける。
「…ねぇ、焦らしてるつもりかい?」
「…違います!」
手元に注がれた視線が痛い。ボタンを外し終えたところで、また花京院くんの手が伸びてきた。ちょっと、と声を上げると、切実な響きを含んだ声が返される。
「今、君に触れなきゃ…また触れられなくなるんだから…」
その手を振り払って、花京院くんの服に手を掛けた。そんなの私だって知ってるんだよ、花京院くんのバカ。
「…私が望めば、いいんでしょ?」
私だって、花京院くんに触りたい。花京院くんは自分ばかりが不自由だと思っているのかもしれないけど、それは心外だ。私が望んでこうなっていることに、花京院くんがちゃんと気付いてくれたらいいのに。
「ななこ…っ、」
ボタンを外して露わになった首筋に吸い付いた。力加減がわからなかったので、花京院くんが小さく悲鳴をあげるまで。
「…自分だけだと、思わないで」
ぎゅうっとしがみ付くと、花京院くんはそっと私の背に腕を回し、もう一度私の名前を呼んだ。
「そんなこと、思ってないよ…」
でも、ななこがこんなに積極的になってくれるならそれも悪くないかな、なんて笑うから、ほんと花京院くんはタチが悪い。
「…お返し。」
「ひゃ、ッ!花京院くんっ」
首筋に吸い付かれて思わず声を上げた。唇を離した花京院くんは満足そうに「これでお揃いだ」なんて笑う。
「…花京院くんのえっち」
「今更どの口がそんなこと言うんだい」
散々誘っておいて、と言われたけど、そんなの知らない。花京院くんは中途半端にはだけた服を脱ぎ捨てると、神妙な顔で言った。
「…好きだよ、ななこ」
その言葉で、空気が一変するような気がした。
20170626
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bkm