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17.君のチカラについて

目が醒めると、やっぱり花京院くんはゆうれいだった。

「…おはよう、お寝坊さん。」

「おはよう、花京院くん。」

囁く吐息はわからないし、伸ばした手は空を切る。ほんのり寂しいけれど、仕方ないんだ。

「お寝坊さんなんじゃあなくって、花京院くんが無茶するからだよ…」

軋む身体を起こして、カーテンを開ける。外はすっかり夕方になっていて、学校サボって何してるんだろ、なんて苦笑する。

「…ごめん。でも、とても綺麗だったよ」

「…恥ずかしいからやめて。」

「つれないなぁ、」

花京院くんは笑って、恋人なんだから少しくらいいいだろ、と言った。
でもあれは絶対少しじゃないよ、私が泣くまでやめなかったじゃあない。と頬を膨らませると、彼は申し訳なさそうに眉を寄せた。

「…だって、さぁ…」

その先の感情はきっと、花京院くんにさえわからないに違いない。彼はしばらく言い淀むと、「明日、雨なんだって」と呟いた。

「…そっか」

雨でも、夢なら会えたりしないのかなって思ったけど、そう毎日じゃあ私の身体がもたないよな、なんて思い直して口を噤んだ。

「雨が降るまで、ここにいてもいいかい?」

「…もちろんだよ。」

二人で話をしているうちに、お母さんが帰ってきた。今日学校に行ってないことは気付かれていないみたいだったので、普段通りご飯を食べて、お風呂に入った。
お風呂から上がる頃には雨が降り始めていて、あぁ花京院くんに「おやすみ」って言えなかったな、なんて思いながら私は布団に潜り込んだ。

*****

どこかで聞いたメロディが遠くから聞こえる。あぁまたあの夢だ、と眠りの奥で考えた。何度も見るうちに慣れてしまったから、まるでオープニングテーマのようだな、なんて。

「天国に到達したDIO」を倒すために、空条くんたちが戦う、というストーリー。
亀の中に入ったり(意味がわからないかも知れないけれど、夢だからまぁ仕方ない)、時空を超えたりしながら「聖なる遺体」を集めている。…なんて、あまりに出来すぎたストーリーは、夢で彼らが言うように、「並行世界」の話なんじゃあないかしら、と思うことさえある。

もし、これが本当に並行世界の話で、私がスタンド使いなのだとしたら。

まぁ考えても仕方ないよな、と、どこか諦めにも似た気持ちで、戦いに身を投じる空条くんを眺めた。彼はきっと、負けやしないのだろう。だって空条くんは、ヒーローだから。

*****

翌日は予報通りの雨で、起きてもやっぱり花京院くんはいない。
傘があっても濡れるし、本当は行きたくないけど昨日サボったしそうも言っていられない、と私は憂鬱な気持ちで学校に向かった。

「…よぉ、ななこ」

「あっ、空条くん。…おはよ」

傘の向こうに大きな影が近付いたと思ったら、見知った綺麗な声がした。雨音で私の声が聞こえないかも、と傘がくっつかないように近付きつついつもより大声を出す。
彼は「花京院はいねーのか」と続けたので、「雨が降るとね、いないんだ」と返しておいた。

「…昨日はどうした」

「えっ?あ、…ッ、サボりだよ!サボり!」

慌てて誤魔化すように笑えば、空条くんは「元気ならいーけどよ」と安心したように零した。それを聞いてなんだか申し訳ない気持ちになった。ごめんね空条くん、花京院くんといちゃいちゃしてたんだよ…と心の中で謝罪したところで、そう言えば私は空条くんとも、って余計なことまで思い出してしまって一人パニックだ。

「…なに慌ててやがる」

「えっ?あ、なんでもないよ!」

空条くんは呆れたように「やれやれだぜ」と笑い、そのまま連れ立って学校に向かう。
少し歩いた所で、突然雷鳴が鳴り響いた。

「きゃあっ!」

ゴロゴロ、なんて生易しいもんじゃあなく、突然ぴしゃりと光が走り、直後に地鳴りにも似た爆音。突然の出来事に悲鳴を上げて傘を取り落とす。大粒の雨が無防備になった私の肌を打った。

「…おい、大丈夫かよ…」

「ごめ、私…雷苦手で…」

黒い学ランが眼前に迫り、私に降る雨が止まる。どうやら空条くんが傘に入れてくれたらしい。ありがとう、と告げようとした矢先にまた頭上でゴロゴロ音がして、思わず目の前の学ランに縋った。

「…子供みてぇだな」

空条くんはそんなことを言いつつも、その大きな手で私の身体を抱き寄せた。湿った布の向こうに空条くんの温もりがあって、少しばかり落ち着きを取り戻す。

「ありがと、傘…」

落とした傘を拾って、空条くんから離れる。彼は「手でも繋いでやろうか」なんて冗談だか本気だかわからない言葉を吐いた。

「だっ、大丈夫…ぅわ!」

またぴしゃりと稲妻が走り、びくりと肩が跳ねる。空条くんは「大丈夫にゃ見えねーな」と笑い、私の傘を奪い取った。

「空条くん!」

「くっついてりゃあ多少はマシだろ」

私の傘はあっという間に閉じられ、空条くんに肩を抱かれる。同じ傘に入るだけでも近いのに、しっかりと抱き寄せられてしまうなんて。

「ちょ、空条くん!」

私の抗議は彼には届かず、半ば引き摺られるように学校へ向かう。空条くんのファンに見られたらと思うと、身を小さくして隣を歩くしかない。その様子がよほど雷が怖いと映ったらしく、空条くんは終始心配そうな顔をしていた。

「…あの、もう大丈夫…空条くんのファンに見られたら私、殺されちゃうから。」

数メートル歩いたところでそう言えば、「あ? なんだ、聞こえねーよ」なんて一蹴された。空条くんは花京院くんとは別の強引さだよなぁ、なんて思う。

「……話があるなら、サボったって構わねーぜ」

空条くんは身を屈めて私にそう言った。どうやら聞こえないのは雨音のせいらしい。このまま相合傘で学校に行くのはあまりに恐ろしいから、少し雨宿りしてもらったほうがいいのかもしれない。「ちょっとだけ」と告げて空条くんと一緒に喫茶店に入った。

「……で、なんだよ」

「…あの、ね。スタンドのこと、」

私がそう言うと、空条くんは僅かに険しい表情を見せ、「何かあったのか」と問いかけた。

「ゆめ、が…」

私は空条くんに今までのことを話した。花京院くんと同じ夢を見ることとか、空条くんたちが戦う夢を見ることとか。
空条くんはタバコを燻らせながら、黙って私の言葉に耳を傾けた。相槌はないけど、真剣に聞いてくれているのが瞳でわかる。一頻り私の言葉を聞くと、彼はゆっくりと煙を吐き出しながら言った。

「それが……ななこのスタンドか」

「そう、なのかな……」

すたんど、と言われてもよくわからない。空条くんのスタープラチナみたいに、私の好きにできるのだろうか。花京院くんのことはそうだとしても、あの夢は一体なんなんだろう。

「……何もしてやれねーで悪ィが」

話くらいはいつでも聞くぜ、と空条くんが優しげな声を掛けてくれて、ちょっとだけ、安心した。


20171207


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm