「ゲームがしたい」
参考書を買いに出かけた書店で、花京院くんが騒ぎ始めた。雑誌の棚の前で、ファミコンが、とかメガドライブ!とか喚いている。私は花京院くんの視線の先の雑誌に手を伸ばした。
「…この雑誌?めくってあげようか??」
「いいのかい?」
なんだかよくわからないカラフルな雑誌を手に取ると、花京院くんは大喜びで私の手元を覗き込んだ。キラキラと子供みたいな顔で食い入るようにページを見つめている。
「めくって!…次のページ」
子供に絵本を読んだらこんな風かもしれないな、なんて苦笑しながら、私は花京院くんに言われるままにページを捲る。何が面白いのかわからないし、この奇妙なドットがこの美少女のイラストと同一というのも理解に苦しむ。
花京院くんは無心に私の手元を見ている。時折ページをめくろうとして手を出し、私はその度に彼のために次のページを繰る。退屈といえば退屈だけど、花京院くんが楽しいならいいかなと思うくらい、彼は夢中で雑誌を読んでいた。
「…あのさぁ花京院くん。…買おうか?」
「えっ!?」
いいのかい?とさっきよりもキラキラした瞳を向けられて、思わず笑みがこぼれる。
「彼氏にプレゼント、もいいかなって」
「…あ、ありがとうななこ!!」
あんまり嬉しそうにするから、なんだか私まで嬉しくなってしまう。本当はファッション誌でも買おうと思っていたんだけど、一ヶ月くらい我慢してもいいくらい、嬉しそうな花京院くんは可愛い。
「…あのさぁ、それはもう読んだから隣のやつがいいんだけど」
こちらを伺うような視線を向けながらそう告げられる。私は持っていた雑誌を棚に返し、その隣の、変なキャラクターの描かれた本を手に取りレジへ向かった。
*****
「ありがとうななこ。…でも、本当に良かったの?」
「うん、ゲームとかあんまり興味なかったけど、花京院くんと一緒に見るのもいいかなって。」
色々教えてね?と言えば彼は嬉しそうに大きく頷いた。いつか一緒にゲームしたいね、なんて、叶わない夢を唇に乗せながら。
「…僕このシリーズが好きでさぁ、」
RPGのファンタジックな設定とか、格闘ゲームの裏話なんかを花京院くんは色々教えてくれて、初めて聞く世界に引き込まれてしまう。きっと、もし花京院くんが生きていたら、学校でこうして一緒に雑誌を眺めたりできたんだろうなと思うと、ほんの少し寂しい。
「…ねぇ花京院くん。」
「…なんだいななこ」
「ジャンケンしよう!」
「え?…あっ、」
ジャンケンぽん、と声を掛けると花京院くんは慌てた様子で手を出した。
「…あ、負けちゃった…花京院くんの勝ち。」
「どうしたの急に。」
「…私も、花京院くんと一緒にゲームがしたかったから。」
ジャンケンなら、今だってできるでしょ?と笑い掛けると彼は幸せそうに笑みを返した。
「…じゃあ、僕が勝ったんだからななこはひとつ、僕の言うことを聞いて。」
「…仕方ないなぁ」
こうして一緒に遊ぶのは、なんだかとても新鮮で楽しい。だから罰ゲームくらい、と軽くOKした私は、すぐに後悔することになる。
「ぼくのこと、好きって言ってよ」
「…え、」
突然真面目な顔で言われて、頬に熱が集まるのがわかる。花京院くんのことは大好きだけど、改めて口にするとなるとやっぱり恥ずかしい。
「…早く」
「な、なんで…そんな、」
君が僕を好きなのは知ってるけど、今、君の口から聞きたいんだ、と、縋るような瞳が向けられる。花京院くんにもやっぱり色々、思うところはあるんだろうか。
「…恥ずかしいよ…」
「僕しか聞いてないから、大丈夫」
早く早く、と期待のこもった視線に急かされて、私は重い唇を開いた。
「…花京院くん、…だいすき…」
ようやっとそれだけ告げると、花京院くんは満足そうに笑った。普段なら「僕もだよ」とかなんとか、こちらがいたたまれなくなるほどの言葉を返されるのに今日はそれがない。不思議に思って視線を上げると、彼は「僕に言って欲しかったら、ジャンケンに勝ってね?」と拳を握った。
20170501
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bkm