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娼婦のお仕事

ギャングの情婦、なんて映画のような話だな、と、思っている。

目の前の金髪は暗闇にはおおよそ溶け込めない輝きを放ちながら私の指の間をさらりと流れ、優しい指先は戦いとは無縁の細やかさで私の肌を這う。気怠い身体を起こせば、さっきまで私を抱いていた年端もいかない少年が行くなとばかりに腕を引いた。

「……まだ、ここにいてください」

「どこにも行ったりしないよ」

情婦というよりはベビーシッターだ。どうしてこんなことになったのかは私にもよくわからない。言葉もわからない異国の地で、騙されたのが始まりだった。けれど幸運なことに、何人目かの客を取り終えたあたりでたまたまこのジョルノという男に気に入られて、以来ずっと飼われている。ここの暮らしは平和だ。

「……ジョルノ、」

「なんですか」

「……好き」

「仕事に私情を持ち込んじゃあいけないんですよ。大人なのにそんなこともわからないんですか」

ジョルノは大袈裟に溜息を吐きながら、「ななこは黙って僕の側にいればいいんです。……それが、あなたの仕事です」と言った。

それでも彼は嬉しそうに瞳を揺らすから、私は時折こうやって彼に好きだと言う。ジョルノからはなんの言葉も返ってはこないけれど、それは彼が僅かばかり私に聞かせてくれた生い立ちとか、立場に関係していると思っている。
この若さで組織(しかもギャングだ)のボスなんて、色々大変だろうなと思うけれど、私にはこうして肌を重ねる以外何もしてあげられない。

「……別に、仕事じゃあなくたって」

「それじゃあ僕が困るんです」

そう言いながらも甘えるみたいに擦り寄ってくるから、柔らかなブロンドを撫でた。強がってばかりのくせに、眠ると決まって腕の中に潜り込んでくる。そんな時はそっと、起こさないように名前を呼ぶ。すると眉間の皺が取れて、年相応の柔らかな寝顔を見せてくれると知ったのはいつだったか。
彼が清々しい顔で朝日を浴びているのを見ると、とても幸せな気持ちになる。この少年が幸せに生きてくれるように、と、彼の寝顔を見るたびに、祈っている。

「……ななこ」

「なぁに?」

「もし……僕が、あなたを手放したら、どうしますか」

言葉とは裏腹にきつく抱き締めながら言われてもなにかの冗談だとしか思えない。思わず笑いを零せば、ジョルノは頬を膨らませて「真剣に考えてください」と言った。
もし、自由になったとしたら、ジョルノは私の「好き」を聞いてくれるのだろうか。

「うーん、……ジョルノがいない暮らしなんて考えられないな」

「……考えておいてもらわないと、困ります」

どうしたと言うのだろう。他にいい子でもいたんだろうか。その割に彼は、抱き締める手を離さない。

「……ジョルノ?」

「……僕は、いつ死ぬかも……わかりませんから」

ぽつりと零した言葉が、胸に刺さる。あぁ、彼はそういう「仕事」なのだ。逃げ出せない、後には引けない立場の。

「……ジョルノが死んだら、すぐに追いかけるよ」

「……だめです、そんなの」

「黙ってジョルノの側にいる、のが私の仕事だから」

先ほどの言葉を逆手に取ってそう言えば、彼はひどく不安げな瞳を向けた。それから「僕が死んだら、ななこなんてお払い箱ですよ」と、強がるみたいに言い放つ。

「それじゃあ、寒空の下に私が捨てられないように、ジョルノには生きててもらわないと」

柔らかな口付けを落とせば、ジョルノは複雑な表情を見せて、「そんな約束はできません」と私の胸に額を擦り付けた。

「ねぇジョルノ。もし私がこの仕事を辞めたら、ジョルノは私の『好き』に答えてくれる?」

「そんなことを言われてしまったら、手放すわけにはいきませんね」

大袈裟に溜息を吐くけれど、声に安堵が滲んでいる。見捨てられるのが怖くて、素直になれない少年の心中はどれほど複雑なのだろうか。私にはわからない。

「……何か、危ない仕事でもするの?」

「いえ、いつも通りですけど……。少し、疲れているのかもしれません」

「……それじゃあ、もう寝ようか」

ぐちゃぐちゃになった布団を引っ張り上げ、ジョルノに被せる。疲れている、の言葉は本当なのだろう。並んで横になるとすぐに彼は私の胸に擦り寄ってきた。長い睫毛が伏せられて、今にも眠りそうな様子のジョルノは、ゆっくりと唇を開く。

「……目が覚めた時に、ななこがいると……ほっとするんです、」

「……大丈夫、ずっと側にいるよ」

私の言葉を聞くと、ジョルノは安心したように柔らかな吐息を零した。それから少しすると、眠ったのだろう規則的な呼吸に変わる。

「……ジョルノ、あいしてる」

耳元でそっと囁けば、幸せそうに頬が緩んだ。


20171213

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bkm