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極東へと続く道

「僕の母は、日本人だったんです。」

ジョルノが突然そう言った。目の前の豊かなブロンドを眺めながら、私はぱちくりと瞬きをする。

「…日本人? ジョルノが?」

「汐華初流乃、と言います」

しおばな、はるの。目の前の男はジョルノ・ジョバァーナで、その名前と彼の姿はなんだか結びつかないな、なんて思いながらジョルノの言葉を繰り返すと、ジョルノは「あぁ、やっぱりななこは日本人ですね」と返した。

「?…どういうこと?」

「イタリアーナは僕の名前を呼べないんですよ」

聞けばイタリアにはHの発音がないらしく、はるの、ではなく「あるの」になってしまうという。だから私が「はるの」と呼ぶのが嬉しい、そうジョルノは言った。

「…うーん、でもなんていうか、ジョルノはジョルノだから…『はるの』って呼ぶのはちょっと…」

「…知っていて欲しかったんです。あなたに」

だから、僕を呼ぶのは今まで通りで構いませんよ。そう笑った彼は、私の手を引いた。

「ジョルノ、?」

「…散歩、しましょう?」

軽やかな足取りでジョルノは私をエスコートする。どこへ行くのかと思えば、海岸沿いのプロムナード。

「…デートみたい」

「僕はそのつもりですが?」

ぽつりと呟いた言葉はしっかり聞こえていたらしく、まるでそよ風みたいな軽い返事が耳朶をくすぐる。驚いてジョルノを見れば、彼は凪の海みたいな柔らかな微笑みを浮かべて、私の手を捕まえた。

「…ジョルノ、?」

「…みたい、じゃあなくて、デートです」

手を繋いで海辺を散歩なんて、ロマンチックじゃあないですか。そう言って笑うジョルノを見ても、冗談なのか本気なのかわからないし、繋いだ手はしっかりと握られていて、逃げ出せそうにもない。恥ずかしいんだけど、と心情を吐露すれば、「どうして?」なんて不思議そうな視線が投げかけられる。

「…ど、うして…って、…だって、デートって、恋人同士がするものじゃあないの?」

「…じゃあ、なればいいじゃあないですか。…僕の恋人に。」

これで解決した、とでも言わんばかりの笑顔でもってあっさりと会話を終わらせたジョルノは、繋いだ手を持ち上げて唇に寄せた。まるでそうするのが当然だとでも言うように指先に口付け、「…愛していますよ」なんて笑う。

「ッ、からかわないでよ…」

「からかってなんかいませんよ? …僕は本気です。…なんなら、この海を渡って日本まで行ったっていい。」

えっと、なんでしたっけ? と、ジョルノは首を傾げる。日本のゴアイサツは、などと唇の中で何やらブツブツ呟いている。

「…日本に、って、」

「ななこのご両親にですよ…。あ、思い出しました! 『娘さんは預かった、』」

ジョルノが言い放ったセリフに思わず吹き出す。話の流れ的に多分「娘さんを僕にください」なんだろうけど、そんな言葉よりも誘拐犯みたいなセリフの方が、ギャングのジョルノには余程似合う。

「…ッ、ちがう! けど、すごくジョルノにぴったりだと思う」

笑いながらそう返せば、ジョルノは分かっていないのか満足そうな笑みで、「それじゃあななこのご両親に逢いに日本に行きましょう。」なんて言うもんだから、私はその言葉の重大さも忘れて、また声を上げて笑った。

「…そんなこと言われたらびっくりしちゃうよ」

「驚かれようが何をしようが、あなたを離すつもりはありませんけどね」

ぐい、と抱き寄せられて、笑いは一瞬で引っ込んだ。涙の残る私の目尻を指先で強引に拭ったジョルノは、真剣な瞳で私を射抜いた。

「…ジョルノ、」

「ななこのためなら、海だって越えられます」

海を越えて恋人の家に行って、告げるセリフが『娘は預かった』だなんて、本当にギャングの鑑だ。ジョルノならやりかねないから、後でミスタあたりに止めてもらおう。
なんて無責任なことを考えつつ、この場を収めるために笑顔を作る。

「…挨拶はさておいても、半分日本人なら、一度来てみてもいいかもね」

案内するよ、と言えば彼は「約束ですよ?」とそっと小指を絡ませた。


20170921


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