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14.君の見た夢

「ねぇ花京院くん。…でぃお、って誰?」

私がそう言うと花京院くんは驚きで目を丸くした。どうして君がその名前を、と言われたので、私は見たまま、覚えている限りの夢を話す。

「…DIOは、僕たちが戦った敵だよ」

そうして彼が話してくれたのは、エジプトでの戦い。私の知らない、花京院くんの生きた道。「吐き気がするほどの悪」などと言われても私はそんな悪い人に会ったことはないし、金髪に黄色い服なんてそんな人、ちょっと想像がつかない。それってセンス的に大丈夫なんだろうか。
けれどなんというか、私の夢の人とは、なんだか違うみたい。私が見た「ディオ」はそもそも肌の色がひどく特徴的だったし、髪も銀色で長かった。花京院くんに聞いたらその特徴はどちらもDIOとは違うと言われたから、別人なのだろうか。それにしても、「ディオと言う名の敵」はそんなに沢山いるものなのかな。

「…うーん…よくわかんないな…夢なのかなぁ…」

夢にしたら想像力が豊かすぎやしないだろうか。私には外国人の知り合いはいない。せいぜいハーフの空条くんくらいだ。彼だって、花京院くんがいなきゃあ言葉を交わすこともなかったと思う。それなのに「ジョセフ」とか「シーザー」なんて名前が簡単に夢に出てくるものなんだろうか。そんな風に零せば花京院くんは「ジョセフ」の名前に食い付いた。

「ジョセフ、って、言ったね。…彼の、ファミリーネームは…」

「え、と…確か…『ジョースター』」

ジョースターさんだ!と花京院くんは勢い良く叫んだ。知り合いなの?と問えば「承太郎のおじいさんだよ」と返された。私は夢で見た「ジョセフ」を思い出す。元気よく跳ねた髪と、イキイキとした笑顔に逞しい身体。空条くんと同じくらいの年齢で、おじいさんには到底見えなかったなぁ…。
なんだか噛み合わないから、やっぱり夢なんだろうか。それにしたって微妙な共通項が気になる。姿は違うにしろ花京院くんの知る名前がこうも出てくるなんて、偶然で片付けていいものではないだろう。

「…ねぇ、ほかには…」

首を傾げる私を、花京院くんが促す。私は夢で見たままのことを話した。断片的にしか覚えていないけれど、DIOに操られた敵がたくさんいることや、「せいなるいたい」を集めているらしいということ。「並行世界」とも言っていた気がするけど、それって、今私が暮らしている世界とは違う場所があるってこと?
我ながら荒唐無稽な話だなと思う。この夢がもし私の想像なら、売れっ子の小説家にでもなれるんじゃあないだろうか。
私の話を笑うこともなく聞いた花京院くんは、ゆっくりと唇を開いた。

「…もしかして、本当に『並行世界』の話なのかもしれないね」

「え、やだ怖いこと言わないでよ。」

ちょっと花京院くんが見えるだけで、私は普通の女子高生なんだよ!?と言えば、花京院くんはすこしばかり真面目な顔で「でも実際、ジョースターさんもDIOもいるわけだし…。何かあったらすぐに言うんだよ」と返した。なんだか深刻な話のような気がして、胸が苦しい。本当に、並行世界の話なんだろうかと考えて、ふと思い出す。

「…でぃお、って人が、『承太郎を倒した並行世界』って言ってたの。…それがもし、本当なら…空条くんも、帰って来なかったかもしれないって、ことなの…?」

まるで溺れ掛けているみたいに、息が苦しい。喘ぐように言葉を零せば、花京院くんは私を宥めるように優しく言葉を吐いた。

「大丈夫だよ、ななこ。…承太郎はちゃあんと生きてる。」

迷子を宥めるみたいな声を聞いていると、不思議と安心する。抱き締めてもらえたらどれほど楽になれるだろう、なんて思考回路が恥ずかしい。

「…うん、ありがとう花京院くん…」

そうだ。空条くんはちゃんと帰ってきた。花京院くんだって、ゆうれいではあるけれどここにいる。そう自分に言い聞かせると、少し落ち着いた。よし、大丈夫。そう思って顔を上げると、思いの外近くに花京院くんの顔があった。

「それにしてもさぁ、随分じゃあないかい?」

彼は不機嫌そうに頬を膨らませる。訝しげな視線を返すと、彼は語気強く私に言葉をぶつけた。

「そこは『僕が生きている並行世界』を思うべきだろう!?承太郎承太郎って、心配になるからやめてくれないか。」

ななこは僕の恋人だろ?と見詰められて、思わず赤面してしまう。でも花京院くん、私が見た夢では君が生きている世界の話はなかったんだよ。…なんて、悲しすぎて言えない。

「…花京院くんが生きてる世界、かぁ…」

今、ゆうれいとしてここにいる花京院くんには触れられないけど、その分、彼と私の距離はとても近いと思う。もし花京院くんが生きて戻ってきたとしたら、付き合えたとしてもこんなに仲良くはなれなかったんじゃあないかな、なんて。だって私たちは家族みたいに長い時間一緒にいて、いろんな話をしている。今だってそうだ。こんな話、クラスメイトにはできない。

「…もし、さぁ。」

花京院くんは長い睫毛をゆっくりと伏せて、ぽつりと呟いた。

「僕が生きてる世界があるとしたら、君はそっちに行きたいと思うかい?」

花京院くんの生きてる世界。
今私の隣にゆうれいの花京院くんがいるのが真実だと思っていたけど、もし、別の世界があったら。

私はそこに行きたいと思うのだろうか。


20170301


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm