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13.君と見た朝

「じゃあ、花京院くんがチェリーだって話は本当だったんだね。」

「…君には恥じらいってもんがないのかい…」

恥ずかしいのか呆れているのか、花京院くんは溜息混じりに視線を逸らした。私は普段の意趣返しと言わんばかりに彼に言葉を投げ掛ける。

「花京院くんに言われたくないんだけど。」

身体を重ねたのが事実だとすれば、花京院くんが初めてだったっていうのも本当なのかと思って、ぽつりと「…ホントに、私が初めてなの?」と零せば、彼は恥ずかしそうに「そうだよ。もう童貞じゃあないんだからそう何度も言わないでくれないか」と頬を赤くしながら早口で捲し立てた。何度も言ってるのはむしろ花京院くんじゃあないか。余程コンプレックスだったのかな、そりゃあ死に切れないよなぁ、なんて思ったらなんだか笑えた。

「…どうして笑うのさ」

「え、死に切れない程コンプレックスだったのかなぁって思ったら、なんだか可笑しくって。」

でも高校生なら経験なんてなくたっておかしくないよ、そこまで言って私の笑いは引っ込んでしまった。花京院くんは、なんて早くに死んでしまったんだろう。

「…ななこ?」

不意に俯いた私を心配した花京院くんが、不思議そうに覗き込む。
ごめん、と呟いた言葉で花京院くんも察してくれたらしく、「そんな悲壮な顔しないでくれよ。僕の葬式ならとっくに終わったんだから、泣くところないだろ。」と、笑えないブラックジョークを飛ばした。

「…花京院くん、それ…全然笑えない」

「そうかな、なかなか洒落が効いてると思うんだけど」

ほんと、花京院くんってばデリカシーが足りないよ。私は、花京院くんが死んだことも、君のお葬式があったことすら知らなかったのに。目の前で呑気に笑う顔が腹立たしくさえある。

「頬をつねり上げてやりたい気分だよ」

「そう言われると、幽霊で良かったと思うね」

あぁもう花京院くんってば。呑気に笑う顔に向かって、霧吹きの水を掛けた。

「くらえ!」

「うわッ!…不意打ちは卑怯だよ…」

水を掛けると消えるから、やっぱり花京院くんはゆうれいなんだな、と改めて思う。昨日のことは、本当になんだったんだろう。
私も「スタンド使い」とやらになったんだろうか。別に昨日の一件以外、変わったことなんてないけれど。

「…ねぇ、花京院くん。」

「どうしたの?」

ななこのせいで見えないんだけど。なんて不満の声を上げつつも、花京院くんは優しい。

「私、どうしたらいいのかな…」

ぽつりとそう零せば、花京院くんはいつもと変わらない声で返事をした。

「どうも何も、別に普通で大丈夫さ。」

何かあっても、僕がいるから大丈夫。と、根拠のない自信たっぷりな様子で、彼は言った。笑顔を見せてくれているんだろうけど、あいにく先程の霧吹きのせいで顔は見えない。

「そういうもんなのかなぁ…」

確かに、一人で思い悩んでもどうしようもない。「まぁ仕方ないのかも」と笑うと花京院くんは「ななこのそういうところ、僕は好きだよ」と声を上げて笑った。

*****

その夜、また夢を見た。

空条くんと、空条くんに引けを取らない体躯の人達が、真剣な顔で何か話している夢。
花京院くんは、いない。


萌えたらぜひ拍手を!


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