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犬だって食べない

「ちょっと、飲み終わったカップくらい片付けなよ」

「……あ? 後でやるよ」

帰ってきたら、恋人がソファでごろごろと寛いでいた。それはいい、けれど彼の目の前には空のコーヒーカップと食べ終わったパンの袋がぶん投げてあって、察するに昼からこうなっていたんだと思うとなんともだらしないこの男に愚痴の一つもこぼしたくなるのである。

「後でって…昼からこうでしょ」

「……なんでバレんだよ」

呑気に舌打ちなんてしながらミスタは緩慢な動作で体を起こし、パンの袋を片手でぐしゃりとまとめ、カップを持った。そのままのそのそとシンクに向かう。ついでに私のコーヒーを入れてくれる甲斐性くらいあればいいのに。

「…なにカリカリしてんだよ。疲れてんのか?」

「そりゃあ一日働きましたから」

少しくらい労って、なんて気持ちを多分に含ませた嫌味を返してみても、ミスタはどこ吹く風でカップを濯いでいる。先日シンクにカップを置いただけで私と喧嘩したことを忘れてはいないらしい。どうせなら飲み終わったら運ぶってことも学習しておいてくれたらいいのに。

「…おーおー、お疲れさん」

「……そのカップのせいで余計に疲れたんだけど」

「まぁそう怒んなよォ…な?」

ミスタはソファに座ると私に向かって手招きした。膝枕でもしてくれるつもりなんだろうけど、それって結局懐柔してご飯作ってもらおうなんてシタゴコロがあるんだろうな、なんて思っちゃうわけで。

「…もー…こんなんで許してもらおうなんて甘いよミスタは」

言いながら膝にころりと転がる私も大概だけど、なんだか悔しいから今日はちょっと仕返ししてやろうかな、なんて。

「そんなこと言ったってお前、俺の膝好きだろ」

太腿に乗った頭を撫でられるのは確かに好きだ。ミスタの腹筋に顔を埋めるのも、もちろん。

「…でもなーんか、今日はイライラしてるんだよね」

喰らえ、と、目の前のウエストに噛み付けば、ミスタは間抜けな悲鳴を上げた。気にせず口元に力を込める。

「痛たた! やめろって!」

「…や!」

ぎり、と力の限り噛んでみたけれど、皮膚が裂けることはなかった。離してみたらくっきりと歯型はついたけど。

「…おめーよォ…なにすんだよォー」

涙目のミスタは可愛くて、ちょっとだけ溜飲が下がる。「美味しそうだったから」と返せばミスタは私の腕を引いて身体を起こし、「そんなこと言ったらお前の方がよっぽどだろーが」なんて言って口付けた。

「…っふ、…」

「……えっろ、」

メシより先にしよーぜ、っつったら怒る? なんて悪戯っ子みたいな笑みを見せるから、変な矢印みたいな帽子をひっぱたいてやった。

「や、だ、よ!」

「んでだよ…いーだろ別に…」

そんなこと言ったら噛んで使い物になんなくするから! と歯を鳴らせば、ミスタは「マジかよ怖ェ!」とおどけて笑った。

そんなこんなで普段通りの空気に戻って、私の機嫌も元どおりになるんだから、ミスタをとやかく言えないくらいに私も単純だな、なんて。

*****

「…おはよミスタ。……珍しいね」

「あ? お前の歯型が付いてんだよホレ」

ヘソの出ていない服を指差せば、ミスタは恥ずかしげもなく裾をぺろりとめくって私の歯型を見せた。結構残るもんなんだな、って呑気に考えていたけど、まぁ服で隠れてるし。

なんて、考えた私がバカだった。

「…おや、その服どうしたんですか、ミスタ」

「いやァ昨日よォー、ちっと激しすぎたっつーか」

これ見ろよ、とミスタは服の裾を捲って歯型を見せている。声を掛けられるたびにそんなやりとりを繰り返すのは、もうなんか、分かってやっているとしか。

「もーーー! バッカじゃないの!」

そもそもセックスしてそうなったわけじゃあないのに、そんな風に言うなんてこのバカ! と睨み付ければ、してやったりと言わんばかりの笑顔を返された。

20171106

たださん、素敵なリプありがとうございました!!!


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm