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先輩なんて呼ばないで

お母さんの友達の朋子さんには、「仗助くん」って息子がいる。年は私の一つ上。
だから私は仗助くんとは小さい時から遊んだりしてて、結構仲良しだ。
仗助くんが中学生の時くらいからあんまり会わなくなったけど、この度同じ学校に入る運びとなり、ちょっとドキドキしている。
入学式から数日、校内で仗助くんを見つけた。女生徒がきゃあきゃと彼を見つめ、声をかけるのはいささか憚られる。どうしようか、と思っていると、仗助くんの方が私にきづいてくれた。

「おう、ななこちゃん」

久しぶり!とどちらともなく笑えば、彼の隣にいる強面のおにーさんが、「誰だ?」なんて私を見つめた。思わずびくりと肩を跳ねさせると、彼は慌てた様子で「悪ィ、脅かす気はなくってよォ」と困った顔をした。

「ななこちゃん、コイツ虹村億泰。顔は怖ェーけど噛み付いたりはしねーから。」

「よっ、よろしくお願いします!虹村先輩!」

勢いよくそう言って頭を下げれば、虹村先輩は驚いたように目を丸くして「仗助ェ〜!俺、先輩だってよォー」と感動の声を上げた。

「あー、良かったなぁ進級できて。」

仗助くんは呑気に笑っている。進級の危機だったんだろうか。こう見えて病弱…なわけはなさそうだけど。
私が不思議そうな顔をしていたせいか、仗助くんが「コイツ馬鹿でやばかったんだよ、」と言い、虹村先輩は「いーだろ進級できたんだから!言うなよ!」と頬を赤くした。
仲良しでいいなぁ、なんて羨望の眼差しを送る。私もこんなお友達ができるだろうか。

*****

なんだかんだで日々はすぎ、私は楽しく高校生活を送っていた。仗助くんはやたらと人気があるらしく、私は触らぬ神に祟りなしとばかりに「東方先輩」と呼ぶようになった。たまに会ったら話すけど、それくらい。仗助くんは格好いいから、みんなが騒ぐのもわかる。けれど私は、仗助くんの隣でいつもニコニコしているコワモテの先輩の方が好きだ。(いつだか友人にそう言ったら、審美眼がおかしい、と笑われた。)

「あ、虹村先輩!」

普段は仗助くんの隣にいる虹村先輩が珍しく一人で歩いているから、気になって後ろから声をかけた。けれど先輩は振り向いてくれない。「虹村先輩!」と呼びながらその背をぽんと叩くと、びっくりしたように振り向かれた。

「うおっ、なんだよ…ななこ…?」

「さっきから虹村先輩って呼んでるのにひどいです!」

私がそう言うと、先輩は「ごめんな、」と、ちょっとだけ寂しそうに笑った。

「いいですけど、どうしたんですか?」

「つーかおめーこそどうしたんだよ。仗助ならいねーぞ?」

「…先輩がひとりだったから。…仗助くんいると、なんか、周りの目怖くって。」

「あー、あいつモテっからなー…。ん?それって俺はモテねーってことかァ!?」

虹村先輩は一人で早合点して悲しんでいる。くるくるとよく変わる表情のおかげで、私はあんまり緊張せずに話せるんだなと思った。

「そんなこと言ってないです。虹村先輩だって、カッコいいですよ?」

私がそうフォローすると、キラキラした瞳で「マジかよォー、嬉しーぜェ〜」なんて子供みたいに喜ぶ。なんていうか、こんなことを先輩に言うのもなんだけど、すごく可愛い。

「…先輩、あの、良かったら一緒に帰りませんか?」

「え、…いいのかよ…」

仗助いねーぞ?と念を押すみたいに言われたから、私は虹村先輩と帰りたいの、と返した。その言葉を聞くや否や先輩はその怖い顔を真っ赤にして、「…まじかよ、」と呟いた。

「オメーよォ、あんま不用意にそーいうコト言わねー方がいーぜェ」

「…なにがですか?」

急に言われてもなんのことかさっぱりわからない。私が首を傾げると、虹村先輩は「だからよォー、なんつーか、気を持たせるよーなコト、っつーの?」なんてしどろもどろになりながら言った。
気を持たせる、とはどういうことなのだろう。私が虹村先輩と帰りたいのは本心だ。

「…私が先輩と帰りたいのは、ホントですよ?」

不思議そうに言えば、虹村先輩はまた赤くなった。それから困ったように「からかうんじゃあねーよ」と小さく呟く。

「おめーにそんなこと言われたらよォ〜、…好きになっちまうよ……」

「え、っ…!?」

勢いよく顔を上げると、虹村先輩は真っ赤な顔で私を見ていた。引き摺られるように私の頬まで熱くなる。

「あの、私は、…もう、好き…ですけど、」

「はァッ!?マジかよォー!?」

「こっ、声が!声が大きいです!!」

恥ずかしいからやめてください!と声を上げると虹村先輩は自分の手で口元を押さえ、小声で「マジかよ!?マジなんだな?」と念を押した。

「…マジ、です…」

「いよおおおっしゃあぁァ!!!」

「ちょ、だから声が!」

大きくガッツポーズする先輩を必死で宥めながら、これは恋人になったと思っていいのだろうか、なんて考えたらなんだかとても幸せな気持ちになった。

*****

「虹村先輩っ!」

「あのよー、その『先輩』っつーのやめねェ?」

なんだか兄貴のこと呼んでるみてーでよォ、俺が呼ばれてる気しねーんだよ、と笑う先輩に、「お兄さんいたんですか!?」と驚けば、「実はよォ」なんて呑気な顔でとんでもなくヘビーな話を聞かされたのは、また別の話。


20170630

沖合さまへ!「虹村先輩」って呼びたかっただけの話。


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm