「ポルノ映画って、日本だとピンク映画って言うじゃない?」
ななこさんが突然そんなことを言い出した。まさかポルノ映画なんて言葉がその可愛らしい唇から零れる日が来るなんて想像してなかった俺が思わず色めき立ったのは、仕方のないことだと思う。
「…どーしたんスか急に」
「アメリカだとブルーフィルムって言うらしいんだよね、」
ポルノ映画の話にしては真面目な顔で彼女が言った。ピンクはなんかわかる、と。
その一言に関しては俺も同意だ。例えばキスなんかしたりするとななこさんの頬とか、胸元とか、ピンクに染まってやけにエロいんだよな、なんて思い出す。ぼんやりする俺にななこさんは「聞いてる?」なんてふくれっ面を向けた。「聞いてるっスよ」なんて答えたけど、俺の意識は完全に彼女の服の下だ。
「…青、って、えっちって言うよりも静的っていうか病的っていうか…あんまりこう、生々しい感じはしないのに、そういう意味で使われるのって不思議だよね…」
真剣な顔で言われても、「えっち」とか「せいてき」(文脈からきっと違うのはわかるけど、俺の脳では「性的」としか変換されなかった)とか、そんなのダメだろ、みたいな言葉が耳について、俺は「んなことどーでもいいじゃないっスか」と、ななこさんの話を遮って彼女の唇に噛み付いた。
「んっっ、じょ、すけくん、」
こら、なんて言葉が唇の隙間から零れるから、あんたが悪いんスよ。と返してまたその唇を捕まえる。
「私がわるいって、なんで、」
「ななこさんがポルノだとかえっちだとか、そのかわいー唇で言うから」
仗助くんはコーフンしちまったっス、なんて笑いかければ、ななこさんはその頬をピンクに染めて俺を見た。その抗議の視線を軽く無視してまた口付ける。ななこさんの頬が染まるのを見るとドキドキするから、やっぱりピンクって色はえっちだよな、なんて柔らかな感触を楽しみながら考えた。
「…あ、」
唇を離して瞳を開けると、ななこさんはハッとしたように俺を見つめて声を上げた。
「え? なんスか?」
彼女が声を上げた意味がわからずに不思議そうな視線を向けると、ななこさんは俺からぱっと瞳を逸らし、慌てたように「なんでもないよ」なんて笑う。いやどう考えても気になるだろ、と返せば彼女はちょっぴり恥ずかしそうに俺の瞳を覗き込んだ。
「…いや、あのね? ブルーも…えっちだなって」
「え、なんでっスか?」
ぱちくりと瞬きをすれば、ななこさんは俺の首筋に腕を回して、「仗助くんの瞳、青いから」と小さく耳元で囁いた。
「アンタはもー…、どんだけ俺を煽る気っスか!」
自分の瞳の色なんて別に好きじゃあなかったけど、ななこさんがそんなこと言うなら全然何色だって構わねーよ、なんてゲンキンなことを考えながら、俺は彼女を背を掻き抱いた。
*****
「仗助くん」
また別の日に、ななこさんは「このあいだの話だけど」なんて俺に話し掛けた。
「このあいだの? なんスか?」
「ブルーフィルムの話! あれねぇ、私調べたんだけど」
フィルムのそういうシーンのとこに青線が引いてあったからなんだって! とキラキラした瞳で語るななこさんを見てたら、チコッとばかりイジワルしたくなった。
「ふーん、じゃあななこさんがえっちだって話なんスね?」
くすくすと笑いながらそう返せば、ななこさんは顔を真っ赤にして「えっ、なんで!?」なんてオロオロと慌てている。
「だってそもそも、青色自体がえっちなわけじゃないじゃあないっスかー、」
だから、俺の目の青がえっちなのって、アンタがそう見えちまったってだけなんだろ?
華奢な肩を抱き寄せて、黒い瞳を覗き込む。
俺に言わせりゃこの瞳の方がよっぽど色っぽいんだけど。
「それ、はッ! 仗助くんがえっちなだけだもん!」
「…うーん…それは当たってるから、なんとも言えねーっスね」
そう期待されたら応えなきゃいけねーよなぁ、なんてシャツの隙間から手を差し込めば、ななこさんは「きゃーえっち!」なんて笑いながら身をよじった。
薄桃色に染まる首筋を見て、やっぱりえっちなのはピンクだよな、なんて思いながら、俺は彼女の薄い素肌に唇を落とした。
20170801
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bkm