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そんな些細なこと

#気が向いたら書くリクエストボックス
なゆ様へ!




「…何してんスか。元気ねーの?」

ドゥマゴで一人お茶を飲む私のところに仗助くんがやって来た。お日様の匂いがしそうな笑顔で、ちゃっかりと向かいの椅子を引く。

「…あ、仗助くん」

気の無い返事を返すと、彼は困った顔で「どーしたんスか?」と小首を傾げた。

「え?…いやぁ…」

曖昧に言葉を濁すと、彼は「無理に聞くつもりはないんスけど、なんか、もし話して楽になるなら聞きますよ」なんて男前な台詞を吐いて、店員さんにコーヒーを注文した。
私が話さなくてもお茶をするつもりらしい。

「…あんまり仗助くんに話すようなことじゃあないんだけどさぁ…」

彼氏と別れたんだよね。そう零した言葉はぽとりとコーヒーの水面に落ちた。…そうか、別れたんだよね、なんて自分の言葉に改めて現実を知り、なんだか鼻の奥が痛い。
誤魔化すようにコーヒーを飲んだ。苦さが痛みを紛らわすどころか余計に悪化した気がする。俯く私を見た仗助くんは、ただぽつりと「…そっスか」と零した。

「…あのね、ダメな奴だったの。…ホント…」

でも、楽しいこともたくさんあったし、いなくなったらやっぱり…と、そこまで言って、やっぱり好きだったのかな、なんて自問自答する。愛はもうぐちゃぐちゃでわからないけれど、少なからず、情は残っていた。

「ごめんね。…ホント、仗助くんに話すようなことじゃなかったよね…っ、」

ぽた、と勝手に涙がこぼれた。それが恥ずかしくて手の甲で拭うと、堰を切ったように涙が溢れ出す。あぁ、これじゃあメイクが落ちちゃう。

「…泣くなよ、ななこさん」

まるで子供を宥めるように言って、仗助くんはハンカチを差し出してくれた。受け取って目元を押さえると、まるで魚拓みたいに私の悲しみが転写される。

「…ごめん、…汚しちゃった…」

「いーっスよ。…それよりななこさん、俺の悩みも聞いてくれません?」

「…え?」

仗助くんの突然のセリフに驚いて顔を上げると、彼は真剣な眼差しをこちらに向けて言った。

「俺の好きな人が、最近彼氏と別れたらしいんスけど。」

「…うん、」

「なんかまだ吹っ切れてないみたいで。…俺がつけ込んだらダメっスかね…?」

そんなことないだろう。と目の前の彼を見て思う。仗助くんは見た目も性格もカッコいい。彼を振る女がいたら見てみたいくらいだ。そう思った私は、ぐす、と鼻を啜り上げ、唇を開いた。

「仗助くんなら、大丈夫だと思う。…別につけ込むとかじゃなくて、…」

「…本当?」

食い入るように身を乗り出されて思わず頷けば、彼は少しばかり困った顔をして、「でもその人、俺の目の前にいるのに全然気付いてないっぽいんスよねぇー」なんて言いながら、私の手を取った。

「…え、?」

「ねぇななこさん。…俺に、慰めさせてくんねーかなァ?」

俺、ダメな男じゃあねーつもりだし、アンタのこと、泣かしたりしねーよ。なんて真っ直ぐに見つめられて、私は崩れたメイクのことなんて忘れてぽかんと仗助くんを見つめた。

「つけ込むとかじゃあなくて、仗助くんなら、大丈夫なんスよね?」

駄目押しのようにそう言われてしまっては、返す言葉もない。

「っつーワケで、よろしくお願いします。ななこさん」

そう言って笑う仗助くんにどきりとしてしまったんだから、私の失恋なんてもしかしたら些細なことだったのかもしれない。

20170515


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm