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結果オーライ!

「東方先輩!これ!」

「…ん?」

勢いよく胸の前に差し出した白い封筒を見て、東方先輩はぱちくりと瞬きをした。
「返事はいいんで、読んでください」なんて、迷惑にしかならないような言葉を一方的にまくし立てながら封筒を押し付け、勢いよく踵を返した。

「あっ、オイ!」

慌てた声は無視してそのまま逃げる。正確には心臓の方が煩くて聞こえなかったんだけど。

*****

「ねぇななこ!東方先輩中等部に来てる!!!」

友人の声に、心臓がびくりと跳ねた。もしかして、なんてあらぬ期待を胸に友人を見れば、彼女は「今隣のクラスに入ってったよ!」と興奮気味に続けた。
あぁきっと、私以外の誰かに会いにきたんだろうな、と溜息を吐く。渡せただけで御の字だ、と思ってはいても、やっぱりどこかで期待してしまう。それはとても馬鹿げた期待すぎて、友人にだって言えないのだけど。

不意に教室がざわめいた。戸口を見れば長身のリーゼント。思わず息を飲むと、彼は私の方にまっすぐ歩いてきて、「見つけた」と一言。

「…昨日の、アンタっスよね?」

「は、はいっ!」

勢い良く返事をすれば、東方先輩は安心したように大きな溜息を吐き、それからまた私の方を見た。

「連絡先も名前もねーからよォー、すげー探しちまったぜー」

「えっ、あ!すみません!」

先輩のお手を煩わせるつもりはなくて、と続ければ、いやすげー探したんだって。煩ったぜ俺はよォー、と返されてぐうの音も出ない。

「で、アンタ返事はいらねーから読めって言ったよなァ?」

「…はい、言いました…けど、」

「それってよー、もしオッケーの返事だったとしてもいらねーの?」

「え、っ…ええっ!?」

私が驚きの声を上げると、東方先輩は「まだオッケーとは言ってねーからな?」と念を押した。それはそうだけど、そんなこと言われたらめちゃくちゃ期待してしまう。残念ながら恋するオトメの思考回路なんて都合のいいようにしか配線されていないのだ。

「で、…俺の返事、聞く?」

「えっ、…それは、期待していいってことですか…」

「…それは内緒。…このまま聞かなきゃあ、アンタは今まで通り。」

聞いたら、幸せになるか傷付くかのどっちか。ハイリスクハイリターンの賭けってやつっスねー。と、東方先輩は笑いながら言った。教室中の奇異の目が向けられたこの場で、そんな賭けに出られるほど、私は肝が座ってはいない。助けを求めるように友人を見れば、アンタが決めなよ、とでも言いたげに視線を逸らされた。

「……場所、変えてもいいですか」

返事どうこうよりこの空気に耐えられなくなった私は、とりあえず立ち上がりカバンを手に取った。ごめん先に帰ってて、と友人に言い残した言葉が辞世の句にならないといいな、なんて思いつつ歩を進める。

私の鼓動が早いせいかそれとも先輩の足が長いせいか、後ろから聞こえる足音はひどくゆっくりだった。人気のない特別棟の隅まで来ると、私は足を止め、東方先輩に向かって振り返る。

「…聞きます。返事」

「その前によォ、なんで名前も連絡先もなくラブレターなんて書こうと思ったのか教えてくんねー?」

東方先輩は困ったように頭を掻きながら言った。見るに本当に何も書いていなかったらしい。単純に忘れただけなんだけど、それで信じてもらえるんだろうか。

「…えっと、ですね…先輩への想いの丈をぶつけるにあたってめちゃくちゃ書き直しをしたので…」

やっと書けた喜びのあまり、名前を忘れました。そう素直に言えば東方先輩は勢い良く吹き出した。笑い声に合わせて高い位置にあるリーゼントが揺れる。

「ッマジかよォー、おまえそれテストの名前も忘れたことあるんじゃあねーの?」

「えっ、なんでわかるんですか!」

私の言葉に東方先輩はまた笑い、目尻の涙を拭うとそのまま私を見据えた。

「名前も知らねーんじゃあカッコつかねーから、まずは名前から教えてくれよ」

「…ななこ、です。」

面と向かって名乗るのはやっぱり恥ずかしい。先輩はその身を屈めて私のそばに寄り、「じゃあななこ、ホントーに俺の返事聞いてくれんの? 傷付いてもいー覚悟ある?」なんて笑った。

「…はい、」

ここまできてやっぱりやだ、なんて流石にカッコ悪い。もし振られたとしてもそれは東方先輩が優しい証拠だし、私も諦めがつくよ。と自分に言い聞かせて、東方先輩を見る。

「…俺、ななこのことはよく知らねーから、」

あぁやっぱりそうだよな、と俯いた頭の上に、「友達からでよければ、」なんて奇跡みたいな言葉が降って来る。

「…それって、」

「ラブレター、ありがとうな」

これからよろしく、とはにかむ東方先輩は、今までに私が見たどの表情よりも格好良かった。

「よ、よろしくお願いします!」

「おう。…っつーか、なんか照れんな…」

「でも、なんでオッケーしてくれたんですか、」

興味津々で先輩の顔を覗き込めば、「そりゃああんな熱烈ラブレターに名前がなかったら気になんだろーよ」と笑われた。

「…じゃあ、なんで意地悪したんですか…」

「ん? この仗助くんに手間掛けさせた仕返し」

でも、ドキドキしたろ? なんて言われて、言葉の通りに心臓が跳ねた。お友達から、って条件付きだけど、私の告白は大成功だ。もうほんと、なんていうか、夢みたい。

「えと、早速一緒に帰ってもいいですか?」

「…おう、もちろん」

東方先輩はやっぱり格好いいなぁ、とその姿を見ていたら廊下の段差に躓いて、先輩に「お前ホント大丈夫かよ、」と苦笑いされた。

そのあと、「ほっとけねー奴」と言われて手を繋いでくれたから、なんていうか、結果オーライ。

20170901


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm